話を現代に戻す。先の聖母マリアの預言は、「プーチン大統領が率いるロシアは神から離れ堕落した世界を懲罰するために 選ばれた道具」と解釈できるわけだ。ロシアやウクライナの正教徒の中には、プーチン大統領をアンチ・キリストと呼ぶ者もいる。実際、ウクライナ国家安全保障会議のオレクシー・ダニロフ書記官は昨年12月28日、ウクライナ正教会指導部に対し、「モスクワから距離を置くように。ロシアと関係がないのならば、プーチン(大統領)を悪魔と呼ぶべきだ」と要求し、物議をかもしている。

看過できない点は、プーチン大統領自身ほど宗教的な内容を多く語る独裁者はこれまでいなかったことだ。宗教を自身の政治的野心をカムフラージュするために利用しているだけと受け取れるが、決してそれだけではないのを感じる。それゆえにと言おうか、欧米諸国はプーチン大統領の論理、真意を理解するのに苦労してきた。欧米政治学者やロシア専門家でプーチン大統領が昨年2月24日、本当にウクライナに侵攻すると予想した人はほとんどいなかったのだ。

5歳の時に洗礼を受けたプーチン大統領は自身を敬虔な正教徒と考えている。同大統領は昨年3月18日、モスクワのルジニキ競技場でウクライナのクリミア半島併合8年目の関連イベントに参加し、集まった国民の前でウクライナへのロシア軍の侵攻を「軍事作戦」と呼び、ウクライナ内の親ロシア系住民をジェノサイド(集団虐殺)から解放するためだと説明し、新約聖書「ヨハネによる福音書」第15章13節から、「人がその友のために自分の命を捨てること、これよりも大きな愛はない」という聖句を引用している。国民の前で聖書の聖句を引用したロシア指導者はこれまでいただろうか。

プーチン氏はウラジーミル・セルゲイェヴィチ・ソロヴィヨフ(1853年~1900年)のキリスト教世界観に共感し、自身を堕落した西側キリスト教社会の救済者と意識している。同氏はひょっとしたら自分をキーウの聖ウラジーミルの生まれ変わりと感じ、ロシア民族を救い、世界を救うキリスト的使命感を感じているのかもしれない(「プーチン氏に影響与えた思想家たち」2022年4月16日参考)。

プーチン大統領の盟友、ロシア正教会最高指導者キリル1世は、堕落した西側社会を「悪」と呼び、ロシアを正義として信者に「善悪の戦い」を呼び掛けてきた。キリル1世はロシアのプーチン大統領を支持し、「ウクライナに対するロシアの戦争は西洋の悪に対する善の形而上学的闘争だ」と強調、西側社会の退廃文化を壊滅させなければならないと檄を飛ばしている。

ロシア出身の在仏政治学者、ロシアの政治分析センター「R・Politik」の創設者タチャナ・スタノバヤ氏(Tatjana Stanowaja)はドイツの民間ニュース専門局ntvとのインタビュー(1月22日)に応じ、「野党だけでなく、プーチンの側近ですら、プーチンがどこを目指しているのか、計画は何か、ロシアは戦争に勝つつもりか、少なくとも負けないようにするのか、誰も理解していない。私たちは高速で移動する列車に乗っている。どこに行くのか誰も知らない。列車の運転手はトランス状態にある。怖い」と述べ、プーチン氏の精神状況を「トランス状態」と感じているのだ。

プーチン大統領は戦略家であり、ロシア正教も国民掌握の手段と考えている指導者とすれば、「神が選んだ懲罰の道具」と言われれば、笑い出すかもしれないが、プーチン氏自身がどのように考えようとも、神は彼を選んで信仰を失った世界への懲罰の道具に利用しているのかもしれない。

ウクライナのゼレンスキー大統領は欧米社会に「もっと武器を」と叫ぶ。プーチン大統領はロシア軍の再編成を通じて再度、攻勢をかけてきた。現時点では早急な停戦の可能性は見えない。ゼレンスキー大統領は、「戦いは単にウクライナとロシアとの両国間の戦争ではなく、自由と民主主義世界と独裁国との戦いだ」という。それにつけ足すならば、ウクライナ戦争は世界が再び神のもとに帰るための避けられないプロセスかもしれない。

聖母マリアは「多くの国は消えていく」と警告を発している。ロシアとの戦いに軍事的に勝利するだけではなく、欧米社会を急いで蘇生させなければならない。世界が神への信仰を復帰することができれば、「懲罰の道具」として利用されたロシアも「お役御免」となり、神に帰る道が開かれることになる。これこそ神が提示するウイン・ウインの停戦案ではないか。ただ、悲しいことだが、そこまで到着するためには、まだ多くの犠牲者が出てくることだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年2月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。