南欧ポルトガルは伝統的なローマ・カトリック教国だ。首都リスボンから北部ほぼ130kmに小村ファティマがある。ブドウ畑の小村には1917年5月13日、3人の羊飼いの子供たち(フランシスコ、ヤシンタ、ルチア)に聖母マリアが降臨し、通称「ファティマの預言」と呼ばれる3つの預言を告げた。1960年まで封印された3番目の預言はひょっとしたら人類の終末、核戦争の勃発を予言していたのではないか、ということでメディアでも一時大きな話題を呼んだ。

聖職者の性犯罪報告書を発表する独立調査委員会(2023年2月13日、リスボンで、ポルトガル司教会議公式サイトから)
当方は1997年、「ファティマの預言」80周年を取材するためにファティマに出かけた。3人の羊飼いの1人、ルチアが当時まだ存命で、コインブラのカルメル会修道院に住んでいると聞いていたので、ルチアに会って封印された3番目の預言について聞き出そうという野心に燃えていた。いずれにしても、ポルトガルは欧州では当時、貧しい国だったが、カトリック教会は国の大きな支柱となっていた。
そのポルトガル教会の聖職者の性犯罪を調査する「独立調査委員会」が13日、最終報告書を発表した。それによると、過去70年間で少なくとも4815人の子供たちが聖職者たちから性的虐待を受けている。
独立調査委員会(6人構成)の議長、児童精神科医のペドロ・ストレヒト氏は、「500人以上の犠牲者から聞き取りをしてきた。実際の犠牲者数はもっと多いと予想している」という。同議長によると、犠牲者は平均11・2歳で、25件の虐待事件はすでに検察に送致されている。そのうち数件はすでに時効となっていた。いずれにしても、教会と司法当局は今月末までにカトリック教会で聖職者としてまだ活動している全ての加害者のリストを受け取る予定だという。
独立委員会は2022年初頭から調査を開始している。同議長は、「われわれは合計で500人以上の証人から話を聞いてきた。ほとんどの虐待事件は1960年から2000年の間に発生したものだ。時効となった件数も多い。25件は警察に引き渡された。いくつかの調査は始まっている」と語った。
調査委員会関係者によると、インタビューを受けたさまざまな年齢の犠牲者のほぼ半数(43%)は、過去の事で苦しみ、何十年も沈黙を守ってきた後、初めて委員会に話したという。被害者が聖職者の性犯罪を法的に訴えた件数は全体の4%に過ぎない。聖職者の性的虐待件数の27%は、「虐待行為が1年以上続いた」という。