以前、私はラーメン価格の不思議という趣旨の話をしました。ラーメンは一杯、今や1000円にリーチしつつあり、長期右上がりで確実に価格は上昇しています。一方、牛丼チェーンが値上げの話をするとかつてはブーイングの上に客足が途絶えるという現象すらありました。私はあれは一種のマスコミが囃し立てたポジショントークだったと思うのです。つまり、左派的論調者が「庶民の牛丼が奪われる」的な書きぶりです。
実際にいるのです。そのようなライターさんは。私が昔やり取りしていたライターさんも10円、20円の価格上昇に血相変えて怒るのです。それが生活に影響するとかそういう話ではなく、値上げすることが反社会的行動であるがごとく、責め立て、それを記事にするのです。日本には左派的思想のメディア、マスコミは多いのでそういう記事は好んで取り上げられ、一般大衆がそれを目にして「そうだよな」と奇妙な同調をする風潮があったのです。
いま、そのようなライターさんが「値上げは悪だ!」と書けば「じゃあ、私たちの生活は出来なくなる!」と反論されるでしょう。実際、値上げを揶揄する報道は減ってきており、むしろ、受け入れようとする気配すらあるのです。
例えば昨年、銀座にダイソーが100均から脱却したアッパーな商品を売る店を出しました。私も行きましたが、ビルの上の方とは言え、有楽町からすぐの銀座の一等地です。100均の販売業者はこれまで「100円で売るための商品開発をしてください」と業者をなだめすかし、中国を含む諸外国ででどんな厳しい労働環境下で作られたかもしれない商品でも店先に並べていました。我々は新疆ウィグルにおける中国の蛮行を非難するけれど日本人が手にする100均商品がどのような人がどのようにして作ったのか全く興味を見せません。
もちろん、これらは正論でありすぎるわけで、「給与は少ないのよ」と反論されそうです。幸いにして大手企業は春闘で相当の大盤振る舞いとなる方向にあります。そりゃ全企業の0.3%の話だろう、と更なる反論がありそうですが、インフルエンサーが動けば世の中は着実に変わっていくのです。そして先日も書いたように賃上げできないところはそもそもゾンビ企業だったということであり、淘汰されかねないのです。
ではリタイア層はどうなるんだ、とご指摘があると思います。物価が上がれば日銀は何をするでしょうか?少なくとも今の大規模金融緩和を正当化する理由が無くなるのです。黒田総裁は値上がりは一時的だから欧米が沈静化すれば日本の物価も2%以下に再び下がる、と考えてきました。それはないかもしれません。よって、預金利息が上がって高齢者は一息、という幻想は申し上げません。経済が正常化すれば健全な企業がより成長しやすくなる、つまり、配当金やキャピタルゲインを取りやすくなるのです。幻の日経平均4万円の頭を押さえているのは今の日銀の金融政策が経済のマインドを温められなくしているからなのです。
安物好きだった日本が今、ようやく目覚める時なのです。地殻変動です。もやしが28円とか納豆が39円とかそういう時代は昔話になっていくのでしょう。マンガ喫茶で泊まり歩いているような若者が「真面目に働かなきゃ食っていけない」と思うようにならねばならないのです。日本は30年もさまよってしまったのです。世界一流の先進国という自負が大きすぎたようです。私がこのブログで15年かけて「まずいよ、このままじゃ」と言い続けたのを日本批判だと厳しいコメントも数多くありましたが、現実にそうなったことを受け止めなくてはいけないのです。
まずは価格競争をやめ、企業利益を確保し、給与を上げ、金利も正常化して、普通の国を目指すところからスタートです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年2月15日の記事より転載させていただきました。