ロシア軍のウクライナ侵攻から今月24日で1年目を迎える。ロシアのプーチン大統領は軍の再編成を終え、大規模な軍攻勢を仕掛けてくるのではないかと予想されている。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は今月8日からロシア軍侵攻以来2回目の海外訪問に出かけ、英国、フランス、欧州連合(EU)の本部ブリュッセルを次々と訪問し、軍事支援を訴えてきた。

ゼレンスキー大統領を歓迎するスナク英首相(2023年2月8日、英首相官邸公式サイトから)
興味深い点は、ゼレンスキー大統領が最初の欧州訪問先に英国を選んだことだ。ある意味で当然の選択ともいえる。ロシア軍がウクライナに侵攻して以来、英国は欧米諸国の中で最も早く支援を実施し、キーウが願う軍事支援を迅速に応じてきたからだ。攻撃用戦車の供与が問題となった時、ドイツのショルツ首相が世界最強の戦車「レオパルト2」の供与問題で国内のコンセンサスを得るのに時間がかかった。スナク英首相は1月14日、同国の主力戦車「チャレンジャー2」の供与をいち早く申し出ている。ショルツ首相が「レオパルト2」の供与を決定したのはそれから11日後の1月25日だ。
軍事的観点からいえば、ウクライナ軍にとって北大西洋条約機構軍(NATO)で最も広く配備されているドイツ製「レオパルト2」が最適だったが、英国の攻撃用戦車の供与はショルツ独政権や他の同盟国に戦車供与への圧力となったことは間違いない。その意味で、ゼレンスキー大統領は欧米諸国の中で常に先頭を切って支援を実施してくれる英国に感謝しているはずだ。
一方、EU離脱(ブレグジット、2020年1月31日以降)後、英国は厳しい経済事情、国内問題を抱えていた時、ウクライナ戦争が勃発した。ジョンソン首相(当時)はいち早くキーウを訪問し、ウクライナへの軍事支援を世界に向かってアピール。ジョンソン氏は辞職後もキーウを再度訪問し、ゼレンスキー大統領と会談している。表現は不適切かもしれないが、ウクライナ戦争はEU離脱後の英国の外交を復活させる絶好の機会となったわけだ。
インスブルック大学の政治学者、ゲルハルト・マンゴット教授はオーストリア国営放送とのインタビューで、「英国はウクライナ戦争に深く関与することで、往年の英国の外交力を回復させようとしている」と述べている。