数か月前、バンクーバーでフェアがあり、私どもも出店してアニメ関係の商品を売っていました。その際、売れないだろうなと思っていた新海誠の「すずめの戸締り」の日本語の文庫小説を平積みにしたのですが、中国人を中心に皆、手に取るのです。小説の表紙をみてすぐに日本で話題になっているあの本とわかるのですね。ところが、不思議とぽつぽつ売れるのです。購入される方に「読めますか?」と聞くと「頑張って読みます!」と。嬉しいじゃないですか?これなど完全に所有欲だと思うのです。日本のホンマものを所有するのです。

今、日本では「すずめの戸締り」のビジュアル本が出ています。これは海外では出るんです。シーンの写真や絵コンテが全体のおおよそ7割で3割が日本語の解説というパタンです。2月下旬に次のアニメフェアがあるので是非とも販売したいと思っています。この流れは最近、日本でヒットしているマンガなどを絵コンテ集/原画集として売り出すものですが、これには強い引き合いがあります。「スラムダンク」の原画集は中国系カナダ人が抱きかかえるようにして宝物を見つけた嬉しさをかみしめるようにお買い頂いています。一方、白人に受けるのが「エヴァンゲリオン」の原画集で相当高額なのですが、お宝ものを見つけたら「即買い」のパタンが多いのです。

私がフェアに出展するのはそこには需要と供給がマッチするお見合いのようなものがあるからです。いくらネットで情報が取れる時代でもこのフェアやコンベンションの独特の熱気とお祭り気分の盛り上がりは画面上では再生できません。そして我々はコアファンの声を聞けるのです。だから私は結構、お客さんと会話するのです。何が欲しいのか、なぜ買うのか、聞き出すのです。そうすれば次回にもっと良いものを提供できます。

所有欲は音楽アルバムや書籍に限りません。自動車のコレクターも多いです。私どもの駐車場に5台借りてくれている方はクラッシックなメルセデスがずらり並びます。全く同じ車の色違いというのもあります。時々乗っているようですが、これも完全所有欲ですね。私も日産GTRを13年も乗っていますが、交差点では私に向かって未だに親指を上にしてくれるのです。「ナイスだよね!」って。所有する満足感だけではなく、それを認めてくれる人々の支えなのです。

こう言ってしまっては語弊があるのですが、この所有欲は男性の方が圧倒的に強いです。特にこだわりとか深掘り具合は全然違います。フェアなどでは女性客はすべての商品をなめるように見て回りますが、最後は買わない人が多いです。一方、男性は遠くからまっすぐ我々のブースに歩いて来るやいなや、お目当ての商品にすっと手を伸ばし、他はほとんど見ず、「これ」って買ってくださる方は多いです。

デジタルの時代は便利であるし、それを否定するものは何もありません。が、自分のものにしたいという独占欲もあるでしょう。私はミニマリストで洋服箪笥も冷蔵庫の中もすっからかんですが、書籍だけはものすごくあるし、買ってしまい、それを大事に並べています。決して売ることもないし、誰かにあげることもないです。お宝ですからね。

デジタル時代の所有欲とは「メリハリ消費の中での自己主張」であり、80年代までの「他人が買うから私も買う」という同化主義から「個性の時代におけるアナログの逆襲」ともいえそうです。

では今日はこのぐらいで。

編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年2月12日の記事より転載させていただきました。