日経が幻のスクープを放ったのは2月6日夕刊、7日朝刊です。読売の記事が正しければ、日経がスクープと思って書いた時には、雨宮説がすでに消えていたことになります。それなのに「雨宮氏への打診」と書いてしまったのは、他社に先駆けたいという焦りからきた思い込みでしょう。
政府が国会に14日に人事案を提示することを決めた段階では、植田総裁が確定していたとみるのが至当です。日程からみても、すでに1月下旬には「雨宮総裁」はなかった。消えてしまっていた人事案をスクープと思い書いた。
日経に求めたいのは、誤報の検証記事です。異次元緩和からの転換がかかり、総裁人事としては、異例なほど注目度が高かった。さりげなく、もっともらしく、あっさりと「雨宮氏が固辞」で済ませる話ではない。市場の動揺も誘ったし、実害を被った投資家もいるでしょう。
日経は10年前の13年9月にも、「米FRB議長(中央銀行総裁)にサマーズ氏、副議長にブレイナード氏(女性)」と一面トップで書き、これも幻のスクープに終わりました。確か顔写真に経歴を添えていました。経歴まで掲載する人事は「これで決まり」と新聞が考えた時に限ります。
日本の新聞が米国の総裁人事をスクープできたら、ものすごいことです。その案は、実際に存在はしていました。オバマ大統領が考えた案に議会の承認が難しいとなり、結局、断念したのです。
日経がスクープと思った時には、すでに消えていた案だったのです。新議長がイエレン氏に正式に決まった10月10日朝刊では「本命辞退、異例の展開」、「迷走した人事はオバマ政権の求心力の低下を象徴する」と書きました。今回と全く同じ展開、似たような扱いです。
「辞退したから誤報ではない」ではなく、「スクープを書いた段階では、すでに消えていた人事案」を書いたのは、明らかに誤報なのです。
大誤報になったのに、検証記事はありませんでした。小さなミスはすぐに訂正する。影響の大きなミスほどは訂正しない。今回は誠意をもって、取材過程を検証し、誤報に至った経緯を釈明すべきです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年2月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。