プーチンとKGB

プーチンは、国家の形とは何か?については、ソ連しか知らない。ソ連とは共産党という特権階級が、贈収賄、暴力、騙し合いといったあらゆる手段を行使してでも国民をコントロールする体制であり、その為には、情報を統制し、国民を労働者と見做し、特権階級が権力と財力を維持することで下々の国民を平定するものだと思っている。

裏を返せば、特権階級である共産党は、何をやってもいいのだ。

自分たちが国民を国民らしくあらしめているのだから、特権階級者が美味しいものを食べ、綺麗な服を着て、豪奢な邸宅に住むことはむしろ当然とさえ思っている。つまり、国民を奴隷にして特権階級が国を収める帝政がプーチンが思う国家なのだ。だから普通の家庭で生まれ育ったプーチンが、自分の代で成功するには、何より共産党での地位を上げるしかなかった。その最も近道が、KGBに入り、共産党の闇の部分でのし上がるしかなかった。

そして、彼はその最終的なゴールとして、ロシアの大統領という現代の皇帝を目指す以外に彼の道はないのだ。しかも、その道はマルクスやレーニンが思い描いた理想の平等な社会などではない。資本家を倒し、ブルジョアな生活を打破するという労働者の味方のフリをしたスターリン時代から連綿と続いている特権階級構造でしかない。ソ連を汚職と腐敗と格差のある社会にしたのがスターリンその人だが、実はスターリンの圧政を許した当時のソ連共産党も同罪と言えるだろう。つまり、ソ連共産党で偉くなれば、誰もがスターリンになれると思わせてしまった。むしろ、スターリンの恐怖政治側に立てば、自分も汚職と賄賂のある豪奢な生活が担保されると思い込み、ソ連邦を猛烈な格差のある軍国主義国家に仕立て上げた。

余談になるが、それが共産主義の実態なのだ。マルクスは人間の本質をまるで理解せず、計画経済に従って人間は機械のように動くと思った。そんなことはあり得ない。人間には無限の自由が与えられているが、それは他者と関わる社会によって許される範囲がある。それが、社会道徳であり、法律だ。しかし、共産主義は人間の内心をもイデオロギーがコントロールできると考えた。そこが根本的に間違っている。だから、共産主義国家、社会主義国家は相次いで破綻し、崩壊した。その原因は、独裁体制という人間の強欲さが生み出したコントロール不可能な専制政治を執る国家になってしまったから、国民の不満が爆発したことによる。

プーチンが生まれたソヴィエト連邦が、まさにそんな特権階級にならなければ人間ではない社会だった。レーニンは共産主義革命が実現した時、「ソヴィエト(評議会)こそが国家である」と宣言したが、労働の共産化とはつまり上も下も無い、平等な社会であり、合議制で各人、各コミュニティが連帯して互いに衣食住に必要な物を生産し、物流を盛んにすることで必然的に物資は供給され人々は豊かになり、そこには平等な社会が実現すると本気で信じられてきたのだ。

平等がイデオロギーの柱である以上、そこに資本家のような特権階級が存在してはならないし、誰かが誰かを犠牲にして贅沢な生活を送ることも出来ず、それはすなわち労働を提供する人民の敵となる。

この考え方が共産主義の底流になり、また同時に労働者から搾取する資本家を敵視する理由だ。その民衆の敵となる集団や個人を監視するのがKGBの仕事であり、プーチンはKGBに入ることで、監視する側とされる側、特権を有する側と特権を持たない側の違いを学んだ。

つまり、共産主義、全体主義しか知らない彼が「成功」を勝ち得るにはどうすればいいか?の答えが、皇帝であるロシア大統領という権力構造のトップに居続けることだ。

いみじくも旧ソ連時代に先祖帰りしようとするプーチンを長年調査してきたあるロシアのジャーナリストは、「プーチンは全てを手にしたかもしれないが、その権力故にクレムリンから出ることは出来ない囚われの身でもある」と評したが、それがプーチンとは何者か?をよく表現していると思う。

以降、

プーチンはソヴィエト連邦に回帰したかった

続きはnoteにて(倉沢良弦の「ニュースの裏側」)。