論文の著者になる権利を売るビジネス:研究界の闇ビジネス
1月18日号のNature誌のNews欄に「Multimillion-dollar trade in paper authorships alarms publishers」という記事があった。評価の高い雑誌の論文の著者になる権利を売るオンライン広告が数百あるという。出版社が調査し、数十の論文を下げにしたという。調査が進むとさらに論文の取り消しが増えるだろう。
これらの広告はフェイスブックやテレグラム、そして、出版をサポートする会社のサイトからアクセスできるとのことだ。価格は1論文当たり、数万円から数十万円で、雑誌の評価や研究分野によって異なるとのことだ。世の中も末だと思うが、どの雑誌にどれだけの数を出したのかしか評価できない評価制度のもたらした弊害だ。
これらの広告はロシアや東欧から生み出されているらしいが、この情報は慎重に精査することが必要だ。ある研究者は二つのテレグラムチャンネルだけで、300種類以上の広告があると報告していた。テレグラムは最近のフィリピン収容所を核とする連続強盗事件でも使われていたそうだが、まさに、悪の温床となっている感がする。
Natureは昨年5月にお金で著者の権利を買っていた疑念のある論文を取り下げたが、その後もNature関連の5雑誌で11の論文で同様の問題を見つけ、取り下げたそうだ。オンライン雑誌が増え、論文出版が簡単にビジネス化されるようになったため、膨大な数のほぼ科学的価値のない論文が出版される「Paper Mill」(論文製造工場)問題が生まれた。
私の元には1日の20件前後の雑誌社からの投稿依頼が送られてくる。オンラインだけの雑誌は印刷工場を必要としないので、パソコンさえあれば、簡単に出版業を立ち上げることができる。論文の審査がちゃんとできているのかどうかの疑義が問題視された雑誌もある。
論文を掲載する評価基準を下げれば、多くの論文を掲載することが可能となり、出版社はザクザクと収入を得ることができる。雑誌への出版には数十万円の掲載料が著者側から支払われるので、論文を1年間に1000編掲載すれば、数億円の収入を得ることができる。
パソコン一つで数人のスタッフを雇用するだけなので、まさに「金の成る木」ならぬ「金の成る論文出版」である。論文のデータ捏造も犯罪的行為だが、著者になる権利を金で買うなど、科学に対する信頼性を根底から覆す大事件なのだ。回転すし事件でもそうだが、性善説が通用しない時代になってきている。