「盆菜」(ぼんさい。広東語でプーチョイ)は、春節(旧正月。今年は1月22日)を祝う豪快な料理です。特徴は、山海の産物、そして中国料理の高級食材を「これでもか」と盛り合わせること。ここでは盆菜の内容、食べ方について、「蟹王府(シェワンフ) 日本橋店」の盆菜を例に紹介します。
豪華食材の饗宴で新春を寿ぐ
盆菜は広東や香港でポピュラーな正月料理ですが、もともとは中国の中でも独特の文化を持ち、移動の末に中国各地にて定住している漢民族起源の民族「客家(はっか)」の祝いの料理でした。その客家の中でも、広東に住み着いた一族から盆菜は広がったと言われています。親族や友人の集まるおめでたい席でこのごちそうを囲みながら、変わらぬ絆を確認するのです。

豪華食材の共演に、テーブルが盛り上がること間違いなし さて、この盆菜の実際の提供ですが、まず大きな鍋に食材がぎっしり詰まった状態で運ばれてきます。ここに特製の濃厚なスープを注ぎ、火にかけてぐつぐつと温め、具材を取り分けて皆でいただくのです。
その具材は以下の通り(蟹王府の例)。
◆上段
伊勢海老、上海蟹、フカヒレ、鮑、ナマコ
◆中段
ガチョウのもみじ、魚の浮き袋、花椎茸、豚足、獅子頭(豚肉のミートボール)
◆下段
大根、里芋、れんこん、湯葉

上記の具材はそれぞれに下ごしらえ、必要なものには味を染み込ませる調理を済ませておき、最適な味わいに仕上げておきます。それを鍋の中にきれいに詰めて、盛り入れの完成です。
と、言葉で説明すると簡単ですが、特にフカヒレ、鮑、なまこ、浮き袋などの高級乾物は、その「最適な味わい」にするのが大変で、時間と技術が必要です――まずはもどすのに2〜3日。水に浸してごく穏やかに加熱してからゆっくりと冷まし、適切に水を換えながら数日かけ、最適な柔らかさをめざします。さらにスープに浸して、やさしく加熱しては冷ます作業をくり返し、味をしみ込ませる工程に。ここにも2〜3日かけます。なおこのスープも手間をかけて作るものです。
これらの高級乾物は単品でも主役を張る食材ですので、そのインパクトや食べごたえは相当のもの。盆菜ではそれらを集めて食べる、実に特別な料理なのです。
中段のガチョウのもみじ(足のゼラチン質と旨みを楽しむ)、豚足からも旨みが出ます。これらの素材からは豊富なゼラチン質も溶け出て、のちに注ぐスープにいっそうの深みをもたらします。
下段、すなわち鍋の底に入れる大根、里芋、れんこん、湯葉もポイント。上段・中段の具材からしみ出る味と、特製のスープの旨みをしっかりと吸った野菜類の味わいは格別です。

スープはしみじみとした深い旨み。軽いとろみはゼラチン質由来