日米同盟の危機?
アルコニス氏の帰還を求める動きに最も協力的な政治家の一人が、ユタ州選出の上院議員マイク・リー氏だ。ユタ州にはモルモン教徒が多く住んでおり、米国内において軍人の政治的影響力は強い。アルコニス氏はモルモン教徒であり、軍人でもあることがリー氏などの政治家が返還を声高に求める一因だと推察される。
これまで、リー氏は上院で満場一致の合意を得る予算案の修正条項を可決することで、アルコニス氏が服役中でありながらも軍人としての恩給を継続して受給することを可能にした。また、岸田氏が米国に訪れた際にアルコニス氏の問題について釘を刺していた。
When Japanese Prime Minister Fumio Kishida arrives in Washington later this week, he needs to have U.S. Navy Lt. Ridge Alkonis with him. #BringRidgeHome
— Mike Lee (@BasedMikeLee) January 9, 2023
岸田文雄首相が今週末にワシントンに到着するとき、リッジ・アルコニス米海軍中尉を同行させる必要がある。
つい先日に至っては、日本が2月中にアルコニス氏を引き渡さなければ日米同盟が見直しの対象となるとツイートした。事実上の恫喝である。
Let’s face it, @kishida230, you’ve got a really good security arrangement with the United States, and you’ve had the luxury of not having that arrangement discussed or seriously questioned in Congress for a long time. That’s about to change.
— Mike Lee (@BasedMikeLee) February 2, 2023
率直に言おう。岸田首相、米国との安全保障上の取り決めは非常に良好で、その取り決めについて議会で議論されたり、真剣に質問されたりすることは長い間ない、という贅沢な状況だったのです。それが変わろうとしている。
コミュニケーション・ギャップを改善せよ
米国は自国民が外国の司法制度の対象となることに極めてセンシティブだ。そのため、日本政府も米国政府、議会と円滑なコミュニケーションを取りながら司法的な手続きを取り、日本の正当性を伝えていく必要があった。それが不十分であったことが今回の日米摩擦の要因だと考える。
今はまだ摩擦は小さいように見られるが、日本政府がアルコニス氏をめぐる問題を放置し続ければ同盟間の溝は大きくなっていく一方だ。そして、そのような事態は米国の抑止に依存をする日本にとっては許容できない。岸田政権には日本の司法手続きの妥当性を米国にしっかりと証明をし、水面下で日本を非難するリー氏などに働きかけていく必要がある。

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