起こりつつある変化は、連続的に起こっているように見えるが、変化の大きさは全く異なる次元で医療の非連続的な変化が起きているといっても過言ではない。DNAシークエンス技術はまさに非連続的な変化で、2009年前後の3-4年で大きく(速さも価格も)変化した。絶対にAIなどに負けることがないと考えられていた囲碁も将棋も一気にAIが進化してしまった。デジタルも中国にあっという間に負けてしまった。コロナ感染症流行がなければ、日本は今でも太平の眠りを貪っていたかもしれない。
この30年間停滞してきた日本の経済を立ち直らせ、再び日の丸の誇りを世界に示す鍵が、医療分野にある。ゲノム・AI/デジタルを融合すれば、日本が迎えている超高齢社会を迎え撃つことができる。無事に対応できれば、それが今後多くの国が迎えようとしている高齢化社会を乗り切る模範となる。戦後の日本は右肩上がりで成長してきたが、今の日本には明治維新のような国体を変えるような考えが必要だ。単に予算をつければ物事が動くと考えている単純な役人が取り仕切っているようでは、日本の再生はない。
電気自動車も中国企業が進出してきたという報道があった。電気自動車販売台数が世界で2位の企業だ。数年でテスラより上を行くかもしれない。電気自動車は高性能バッテリーと内部のデジタル情報が重要で、エンジンの性能を競う時代ではなくなった。自動車もかつての家電業界のような黒船に直面している。家電は世界の市場で負けて久しい。半導体も日本の企業が競争力を誇ってきたのは夢の夢となりつつある。他分野でも似たような危機意識を持っているようだが、10-20年後に医療がどのように変化するのかを予測し、その先を行くような投資が必要だ。
内閣府のAIホスピタルプロジェクトの責任者を務めて、医療現場のニーズを把握することの重要性を身をもって体験した。貧困な想像で商品を生み出しても、それが広がるはずもない。現場を知らない人が政策を策定する時代を終らせる国のリーダーが必要だ。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年2月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。