日本は中国の台湾進攻を警戒し、米国、オーストラリア、台湾など同盟国と連携して対策を講じてきた。地理的には遠い英国、フランス、ドイツら欧州の主要国は軍隊を台湾海峡に派遣し、台湾を中国からも守る日米軍と軍事連携を深めてきている。経済支援や政治家の発言だけではなく、相手の事情に呼応して具体的な支援をアピールすることは欧米諸国の指導者たちはうまい。日本の岸田首相がウクライナまで訪問し、連帯をアピールできれば、その効果はビデオ会談より大きいことは間違いない。
それでは、岸田首相の訪問時期だ。ウクライナ情勢を考えると、ロシア軍がウクライナを侵攻して1年目となる2月24日前しかないだろう。ロシア軍は軍再編成を終え、今春にはウクライナに再び攻勢をかけてくると予想されている。キーウも安全ではない。ロシア軍の攻撃が再び激しさを増す前にキーウを訪問することは賢明だ。西側の指導者を迎える側のウクライナにとってもそのほうが都合がいいだろう。一方、岸田首相にとって、4月の統一地方選挙、衆院補欠選が控えているから、2月中旬までにしか外遊する時間がない。
最後に、安全問題だ。戦争中の国を訪問するのだから完全な安全はあり得ない。日本の首相のウクライナ訪問日程がロシア側に伝えられれば、もちろん危険は増すだろう。岸田首相は覚悟が必要だ。岸田首相が米国と共にウクライナを支援し、ロシアを批判していることにプーチン大統領は不快に思っている。ウクライナ戦争が勃発して以来、ロシア・メディアの日本批判は急増している。岸田首相のキーウ訪問で何が起きても不思議ではない、と考えるべきだろう。
岸田首相はG7(主要国首脳会議)の議長国だ。首相は今年5月、出身地の広島でG7サミット会議を開催し、世界に向かって原爆の恐ろしさを訴える予定だ。同時に、広島G7サミットではウクライナへの支援が最大のテーマだ。岸田首相のキーウ訪問は最高の機会だ。世界の指導者は「発言」だけではなく、「行動力」がこれまで以上に問われている。
岸田首相の長男の「物見遊山」疑惑問題を野党は追及する考えという。その時だけに、キーウ訪問はメディアの目をそらすことはできる、といった計算でキーウ訪問を決定すべきではない。多くの国民が犠牲となっている戦争下のウクライナを訪問する以上、私心や政治的野心を捨て、訪問してほしい。ロシアの侵略戦争が如何なる結果をもたらしているかを目撃し、日本国民に伝えてほしい。岸田首相のキーウ訪問が実現できれば、日本とウクライナ両国民は親密感を一層深めていくことができるだろう。
最後に提案だ。ウクライナ国民は今、電気や水道がない中で生活をしている。厳しい冬はまだ続く。5000個の発電機をポーランドから列車で運び、ウクライナに届けてはどうだろうか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年1月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。