3 送金されなかった輸出代金の支払い
私は日本の書籍のカナダでの卸と小売り販売もしていますのでその輸入代金を毎月、日本に支払っています。送金は一定額を超えるので私が銀行の窓口に行って処理しなくてはいけません。
1月の初め、いつものように窓口に行くと初めて見る若い白人女性。慣れた手捌きでいつものように書類にサインを求められ、にっこり笑って「またねー」で終わりました。日本の銀行には送金の旨、連絡をします。(いま、日本側で一定額以上の海外送金の受け入れは面倒な手続きがあります。)ところが翌日、日本の銀行から「送金がなかった」と。
銀行口座をネットバンキングで確認すると口座から送金したはずの資金が引かれていません。とすれば送金が実行されなかったことで間違いありません。朝9時過ぎにクレームの電話をするとコールセンターが対応し、支店の担当者から必ず連絡をさせますと。が、電話はかかってきません。午後の2時ごろ、口座を再びネットバンキングで確認すると資金が引かれています、が、金額が指定額より多いのです。「そんなバナナ?」と思わず叫んでしまい、銀行に走ります。
こういう場合は受付で「マネージャーと話したいのだが」と申し出ます。マネージャーがポケットに手を突っ込んで「送金の件でなにか?」と歩み寄ります。昨日署名済みの送金依頼書のコピーを見せ、事情を説明します。ことの重大さが分かったのか、マネージャー氏は「おおっ!」と態度が変わり調べ始めます。30分待たせた後「これは起こりえない間違い。そもそも顧客の指定する金額と違う金額が送金される仕組みはあり得ないのでもう少し時間がかかるからわかり次第、事務所に電話する」と。
1時間後、銀行は送金指定額と銀行が実際に間違って送金した差額、及び海外送金手数料全額を私どもに全額補填、振込みし、詫びました。「なぜこれが起きた?」と聞いても「まだ調査中です」と。銀行は事情が判明し、100%銀行側に非があると分かったのでしょう。それで極めて早い損失の全額補填をしたのです。海外送金の場合、一度送金すると銀行でも戻せないので、間違ったら「はい、それまでよ」なのです。同僚から「補填してもらって得したんじゃない?」と言われましたが、そういう問題ではないでしょう。ちなみにこの銀行はカナダで最も大きなR銀行バンクーバー本店です。
このようなバトルは実はごく一部で大なり小なり毎日、何か起きています。海外で仕事をする場合、日本では考えられない事態は年中起きるのですが、最近、とみに増えてきたと思います。昨日、顧問弁護士と駄話をしていた際、「若い人の仕事の能力が異様に下がっているし、直ぐに辞める」と嘆いていました。それらのしわ寄せはベテランに来るのだと。全くその通りです。
もう一つは世の中の仕組みがあまりにも複雑になり、専門家ですらキャッチアップ出来ない事態が生じているのです。そうなれば新人さんにとっては余計に難しく、自己判断できる範疇も制限され、仕事は楽しくなくなります。かといって自営で何かやるにはもっとハードルが高くなった、それが現実です。
私はリタイアをするにはまだ早いのですが、ふと思ったのは「こりゃ、死ぬまで面倒見続けなくてはいけないのではないか」です。それだけならまだいいですが、そのうち、「すみませんが、あの世でも相談役として見てもらえませんか?」と笑い話にもならない時代がやってくる気すらしています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年1月29日の記事より転載させていただきました。