分かりやすく言うと「定年まで雇ってあげる代わりに賃金はうんと安くしなければならない時代になった」ということです。
2.定年がどんどん延ばされているから
そんな状況にもかかわらず「年金財政が苦しいから民間でめんどうみといて」とばかりに、この30年間一貫して定年は55歳→60歳→65歳へと引き上げられ続けています。
昨年からはついに70歳雇用も努力目標として企業に課されています。これも賃金を抑える強力な要因ですね。
3.社会保険料もどんどん押し付けられているから
これもたびたび述べていますが、社会保険料も含めた人件費はジリジリですが上がってはいるんです。手取りが減っているのは社会保険料として天引きされる額が増えているからです。
あと「半額は会社が負担してくれているはずだ」という小学生がたまにいますが、会社は社会保険料等すべての負担を含めて人件費としているので、社会保険料が上がれば手取りは減ります。
会社負担か本人負担かなんて関係ないです。
さて、そういう観点からここ10年くらいの政府の政策を振り返ってみると、賃上げをアシストするような具体的な政策って何かあったんですかね?
「何もやってない」ならまだマシですよ。実際は定年はさらに引き上げるは、(消費税引き上げや社会保障給付の見直しは高齢者が反発するから)社会保険料だけずるずる引き上げ続けるはで、むしろ絶対に賃上げできない環境づくりを政府が率先してやってきているわけですよ。
個人的には、特に70歳雇用のインパクトが大きすぎると感じますね。
たまに「会社の中に老人ホームでも作らせる気か!」なんて怒ってる経営者もいますが、ちょっと違いますね。
普通の老人ホームだったら利用料を徴収できるからまだいいんでしょうけど、企業内のソレは毎月それなりのお小遣いを渡さないといけないんですから。
賃上げどころか、どうやってそのコストをねん出するかで頭を抱えている企業は多いはず。
それで多くの企業が右往左往する中、ふってわいたようなインフレ局面が到来した、というのが今のタイミングです。
恐らく多くの日本企業にとって、それは賃上げの好機などではなく「できる限り低く据え置いて、実質賃金を下げる絶好の賃下げチャンス」なのではないでしょうか。
デフレって、実は従業員にとってすごく有利な状況なんですよ。会社は賃下げできないから。
だから政府も社会も、ツケは企業に丸投げしつつ、必要だけどめんどくさい社会保障改革とか全部先送りし続けることができたんですね。
そもそも企業がさくっと従業員の賃下げしたりスパスパ首切れたりする国だったらそんな芸当は不可能だったはず(結果、政治も真面目に課題に取り組んで“失われた30年”なんて実現してなかったでしょう……)。
ちょっと思い出してほしいんですけど、確かに失われた30年というのは停滞した一方で、少なくとも正社員の椅子に座れていた人にとっては奇妙に安定した期間だったはず。
いろんな大人のポジトークに乗せられて「なんだかデフレが諸悪の根源」みたいな気にさせられてたけど、物価高の今なんかよりずっと暮らしぶりは楽だったんじゃないですかね(笑)