現代社会では情報戦を制する者が世界を制するとしても過言ではないでしょう。かつてはヒューミントと称するスパイの暗躍が映画などの題材で使われることもあり、情報活動には独特のイメージが付きまといます。現在はネットを駆使したものが増え、極めて高度、かつ、厄介なレベルになってきています。

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ウクライナ問題では表面的な戦争とは別に水面下でおびただしい情報戦が錯綜してます。それは当事者であるロシアとウクライナのみならず、周辺関係国やアメリカを含むNATOなどもその情報分析に多大なるエネルギーを費やしています。その情報の読み取り方一つで戦略はまるで変わってきます。

ドイツが世界最強の戦車とされるレオパルトのウクライナへの提供について煮え切らない態度を取り続けていることに厳しい世論の批判があります。レオパルトは欧州各国を中心に相当数が配備されていますが、ドイツ製故に第三国に提供するにはドイツの承認がいる、という条件が付いているのです。各国はドイツに対してその承認をするように圧力をかけているのですが、首を縦に振らないのです。最新のBBCニュースでは提供したい国があるならそれを拒まないという姿勢に緩和したようなのでウクライナに提供される公算はあります。

ではドイツは何故、それほど拒むのか、単に煮え切らないなどという簡単な理由ではないはずです。ドイツなりの分析があり、我々の知らぬ世界の事情が存在するのだとみています。それはドイツが張り巡らしている情報網の分析に基づくもので公開されることも我々が知ることもありません。

もちろん、ドイツは第二次世界大戦の反省から武器を供与し、間接的な戦争関与に国家として踏み込みにくいという側面はあります。特にヒトラーを強く批判し、戦前のドイツはドイツではないというぐらいのスタンスを取る以上、その立場は尊重すべきでしょう。ロシアとの経済や外交上の結びつきについても当然ながら一定の考察があるものと思慮します。

場面は変わって台湾。日経に11月の地方選の際の現地の状況を報じた記事があります。その中で中国本土から有利な情報を選挙戦の最中に無数に拡散され、嘘だとわかっていてもその膨大な偽情報に結局、有権者は判断が揺れたのではないか、という内容です。これが私が以前から指摘している中国のやり方なのです。ドンパチよりも、人のマインドを変えるのです。これも一種の情報戦であります。来年1月の総統選はその情報戦は熾烈なものになるはずですが、民進党を支援する西側諸国はそこを支援するチカラが弱いのです。理由は言語と文化と社会に精通していないからです。

昔のヒューミントのスパイはある特定の目的を達成するために能力の高いスパイが暗躍して情報を盗み出すぐらいのことは出来ました。現代の戦いは民衆そのものを変えるという規模です。つまり世界の情報戦は圧倒したレベルにあるということです。

日本ではスパイという言葉に極めて強い拒否反応が出ます。それゆえ外国のスパイは日本の情報を盗み放題だし、アメリカなど諸外国から日本が入手した極秘情報が日本から第三国に抜けていて大変な騒ぎになったこともあるのです。故に、例えばファイブアイズは政治的には日本に「参加しないか」とお誘いをするのですが、実務レベルでは「日本を仲間に入れると漏れるから嫌だ」とされているのです。