株式会社フィールドサーブジャパンの岩村広一朗氏に「インバウンドに対応している販売員のコロナ前後の変化」についてご寄稿いただきました。

コロナ前に小売企業が求めていた外国人販売員のスキル

インバウンドの主役だった「爆買い」

新型コロナウイルス蔓延前の2019年頃までの、訪日観光客(以下、インバウンド)の主役は間違いなく中国からのお客様でした。いわゆる、爆買いです。

購入商品も家電製品、医薬品、洋服、雑貨など多岐にわたり、さまざまな場面で中国語対応が求められました。当時、当社のような人材派遣会社もさまざまな企業へ中国語対応可能な接客販売スタッフを派遣していました。

中国からのインバウンドに対応できることが大前提で、日本語は二の次でした。当時、お取引先の企業様から求められるインバウンド人材は、とにかく勤怠よくキビキビとインバウンド対応ができることでした。その上で、販売実績がついてくれば、御の字といった状況でした。

なぜ企業は外国人販売員を自社採用ではなく、派遣に求めたのか

外国人販売員を管理する人事的負担

日本に滞在している外国籍の方は、当然ながら在留資格(以下、ビザ)を有しています。現在、日本には約30の在留資格があり、在留資格ごとに就業できる職種や時間の制限が設けられています。

例えば、海外からの留学生が発給を受けている留学ビザは就労が認められていません。しかし、ビザの発給を受けた上で、資格外活動許可を取得すれば、週28時間までの就業が認められるようになります。さらに、夏休みなど学則による長期休業期間であれば、週40時間まで就業することが可能です。

このような就業可能なビザなのか、就業できないビザなのか、特例があるのかないのかなどの知識や管理が必要になり、人事的な負担につながります。

もう1つ、人事的負担がかかることとして、外国人販売員たちの文化と日本の文化の違いを把握することが挙げられます。文化の違いと一言に言っても、宗教や時間に対する価値観であったり、接客の姿勢の違いだったりと理解にも時間がかかります。

そのほかにも、細かいけれど直さないと後々、トラブルにつながるようなこともあります。当社で、来日間もない留学生中国人の面接をしていた時のことです。日本語での意思疎通は問題なく、若干言葉のなまりがあったものの、インバウンドスタッフとしての派遣は可能だろうと考えていました。

しかし、面接の中で恐らくこちらの言葉が上手く聞こえなかった時に、「あ?」と聞き返してくることがありました。始めは私の聞き間違いかと思いましたが、ところどころで「あ?」と聞き返してくるのです。

日本であれば、間違いなく態度の悪い販売員です。別の中国人スタッフにこの話をすると、「日本人は話が上手く聞こえなかった時に、え?と聞き返しますが、中国人は、あ?なんです、すみません」と教えられ、面を食らったことがありました。

相手の国の理解を深めるとともに、こういった接客に直結するような文化の違いも見抜いていく必要があります。

また、このようなことを1つひとつ人事や販売の現場で指導していくことは、通常業務を教える以上に手間がかかり人事的負担につながります。

人件費ではなく、プロモーションとして予算が組まれているケース

商品プロモーションの一環で販売員の予算が組まれているケースがあります。

このケースでは、インバウンド向けのプロモーション費用として予算が組まれており、インバウンド対応予算として長期的な見通しが立たないため、自社ではなく有期雇用の派遣社員を頼っています。

もちろん、自社にとってパフォーマンスが高い人材と判断されれば派遣会社から人材紹介という形で派遣先企業の直接雇用として就業するケースもあります。

販売員の人員不足

実のところ、コロナ前後に限らず、中国籍の方のリクルートは日本人ほど苦戦はしていません。中国籍の方は横のつながりが広く、就業中のスタッフから友人の紹介があるためです。

本当によくある話ですが、当社で派遣社員のリファラル施策を実施した時のことです。「友人を紹介したいのですが・・・」と就業中の中国人スタッフから連絡があり、当社の営業がその紹介された方の詳細をスタッフに確認すると「SNSの知り合いなので、電話番号以外わかりません」と返事が返ってくるのです。

どんどん中国人求職者の紹介をしてくれるので、コロナ前後でも中国人スタッフの確保に苦労することはありませんでした。気が付けば、当社の中国人派遣登録者は、3000名を超える規模となっていました。

しかし、販売の現場では、令和4年11月度職業別有効求人倍率の“販売の職業”は2.00ポイント、コロナ前の令和元年同月比で2.32ポイントとなっています。コロナ前後に限らず、販売業は人材不足の業界です。

当社でもコロナ以前はそもそも販売員が不足している状況から、国籍関係なく販売職に対して興味やモチベーションのある方を採用していましたが、コロナ後はどの企業でも人員コストに対する意識が強くなり、以前よりも販売員採用のハードルを上げざるを得なくなっています。

コロナ以前は、日本語能力試験でN1、N2レベルを取得していなくても日本語でのコミュニケーションがしっかりと取れていて、商品・ブランドへの興味、販売へのモチベーションが高ければ採用の検討をしていました。

しかし、現在はそれに加え、接客クオリティ、販売数字へのモチベーション、報告書へ正しい日本語で必要な情報を記載できるかなど、外国人販売員へ求められることが多くなっています。

人員不足ですが、求められているスキルやホスピタリティは、コロナ以前よりも圧倒的に高くなっています。