今週号の日経ビジネスの特集がパナソニックです。過去、何度か同社の特集を組んできた日経ビジネス誌ですが、今回はあまりしっくりこなかったのです。なぜ、このタイミングで、数ある日本企業の中から再びパナソニックの特集を打ったのだろうと。
こういうと関係者の方にはお叱りを受けるかもしれませんが、楠見雄規氏が社長になってから1年半を超えてきています。若干の業績改善は見られるのですが、おおっ!という改善にはつながっていません。同誌によると8つの事業会社に大幅権限委譲し、持ち株会社のような体制を作り、責任の明白化を図ることを一つの柱としました。
このやり方はワークする場合とワークしない場合があります。それぞれの事業部隊の目的や目標ははっきりします。またリーダーたちの個性は活かせる一方、企業が縦割りになりやすい弊害があります。近年の経営では企業が持てるさまざまなアイディアやノウハウを各部署から寄せ集めてかつてない新たな切り口で勝負するのが主流となりつつある中で事業部制は狭い枠組みとなる障壁を作りかねないのです。
パナソニックそもそもの歴史は日本企業の苦悩を全て代弁しているようなところがあり、企業研究の課題としては確かに注目するに値します。同社は90年代の売り上げが6兆円台に対し、2022年の売り上げは8兆円少々、この30数年間、6兆円から9兆円の間を行ったり来たりでいわゆる右肩上がりの成長性とはほぼ無縁です。また営業利益で見ると1984年の最高益5700億円台に対して22年は3500億円台で、今だ40年近く前の利益を更新できないのです。
ある意味、これほど成長しない会社も珍しいのです。ではなぜ、同社はいまでも存在しうるのでしょうか?これは私の見解ですが、昔の名前のまま出ている総合家電会社はパナソニックしかないのです。故に「まぁ、安心か」で購入する顧客が多いのだと思います。テレビ一つとってもソニーも東芝もシャープもブランドはあるけれど違う会社で作っています。だけどパナソニックは変わらないのです。変わらない故の存在価値と言ったら怒られますが、でも最終的にはそんな状態なのです。
日経ビジネスに一部家電について「指定価格」制度を取り入れていると報じています。つまり、定価であって値引きを一切しない制度です。記事ではこの効果があり、利益率が改善していると報じられています。私は申し訳ないですが、これは失敗するとみています。理由はいくつかあります。
定価制度で思い浮かべるのが書籍の定価。これは再販売価格維持制度というのがあり、定価でしか販売できない仕組みです。書店の役割は出版社に代わり、販売代行をしてもらうだけで売れ残れば返品できるので書店のリスクはありませんが、儲けのうまみはほとんどないという事業形態です。パナソニックの指定価格も全く同じで売れ残れば同社が引き取ってくれるのです。これ、家電量販店にとっておいしい話でしょうか?同社の製品を売るモチベーションはありますか?それこそ、パナソニックオンラインストアで販売すればいいだけの話になるのです。