巨大企業と中小零細企業との二極構造への配慮不足
特に問題なのは、この「ワークライフバランス」政策が、日本の産業構造の特徴である巨大企業と中小零細企業との二極構造への配慮不足のまま全国一律に実行されてきた点にある。
会社数では9割、従業員でも7割が該当する中小零細企業には、この「両立支援」策はほとんど届かなかった注2)。この反省がどの程度「政府関係会議」にあるのだろうか。
「会計年度任用職員」雇い止めの現実さらにその政策は、たとえば北海道庁や市役所それに町村役場で働く非正規雇用公務員「会計年度任用職員」の大量の雇い止めにも無力であった。その数は2023年3月末の北海道内だけでも実に3246人にも達する(表1)。

表1 道内主要自治体の「会計年度任用職員」の雇い止め状況出典:『北海道新聞』(2023年1月20日)
これは4100人の「会計年度任用職員」を抱える札幌市、3100人の北海道庁の分が不明なため、まだ増加する見込みである。2020年度に政府が「会計年度任用職員制度」を導入した結果がこれである。
「ワークライフバランス」では人口反転はしない一方では、政府自らが「ワークライフバランス」と整合しない「会計年度任用職員」制度をつくり、雇用不安や人材流出を促進させておきながら、他方では「両立支援」を「異次元」の柱に据えるという矛盾を抱えたままで、「我が国の存立を左右する」少子化政策ができるだろうか。
いわゆる和製語の「マッチポンプ」状態が「異次元の少子化対策」にあらためて現出しようとしている。これではいくら財源論で知恵をしぼっても、2030年に向けての人口反転という成果には乏しいであろう。
合計特殊出生率との婚外子率との相関マスコミにおける百花繚乱の「私の少子化対策論」の中では、少子化の筆頭指標を「合計特殊出生率の低下」と位置付けて、その動向への不安を指摘する向きもある。
そして、日本人男女の未婚化率の上昇と合わせて嘆きながら、世界の国々で認められる「婚外子率」(制度化された結婚以外で子どもが生まれる比率)の高さを、今後の日本では期待したいというような結びで終わる論者も少なくない。
世界的に見ると婚外子率は一様ではないしかし、世界的に見ると各国の婚外子率は一様ではない。表2ではOECD Family database(2020)のうち、婚外子率と合計特殊出生率がともに掲載された国を選択した。なぜなら、国が抱える諸事情により、このうちのどちらかのデータしか公開されないことがあるからである。
たとえば中国もロシアも合計特殊出生率は公表されているが、婚外子率は出ていないから表2には含まれていない。

表2 婚外子率と合計特殊出生率の国際比較出典)OECD Family Databases(2020)から金子が作成婚外子率 Share of births outside of marriage (% of all births)合計特殊出生率 Total fertility rate
ことわざでも言われてきたように、比較することは「井の中の蛙大海を知らず」を避ける唯一の方法でもある。特に各国がもつ文化の相違を前提とする人文社会科学系の学問では、比較法の重要性は論を待たない。
この観点で、表2とすぐ後の表4を少し解説してみよう。確かに日本の婚外子率はこれまでほぼ2%程度で推移してきた。表から日本とともに韓国とトルコそしてイスラエルの低さにも驚くであろうが、同時に少子化を克服したフランスの62.2%、福祉先進国と称されてきたノルウェー58.5%やスウェーデン55.2%にも、日本とは異なる文化の質を痛感する注3)。
北欧のデンマーク54.2%やベルギーの52.4%はもとより、ニュージーランド48.3%を筆頭に、イギリスの44.0%、アメリカ40.5%、オーストラリア36.5%などの英語圏でもかなり高い。これらはこれまでに日本でも共有されていた知見であろう。