ウクライナ戦争が勃発して2月24日で1年目を迎える。軍事大国ロシアとの戦いでウクライナ軍は善戦し、ロシア軍に占領された領土を奪い返すなど攻勢に出てきた。その背後に、欧米諸国からの全面的援助、重火器を含む武器の支援があったからだ。

戦いはいよいよ正念場を迎えてきた。ロシア軍は軍の大幅な刷新と拡大に乗り出してきている。一方、ウクライナ側はロシア軍の反撃を予想し、ゼレンスキー大統領は欧米諸国に重火器、特に攻撃用戦車の供与を要求してきた。

独南西部のラムシュタインの米空軍基地で20日、「ウクライナ防衛コンタクト・グループ会議」が開催された。その会議ではドイツの攻撃用戦車レオパルト2をウクライナに供給するか否かが焦点となったが、ドイツのボリス・ピストリウス新国防相は、「ドイツの在庫とパートナー国のシステムとの互換性を確認する必要がある」と説明して、決定を見送った。ポーランドとフィンランドは自国が保有するレオパルト2をウクライナに供与したいが、ドイツは承認に慎重な姿勢を崩していない。

ところで、ピストリウス国防相はラムシュタインの米軍基地で、キーウに届けられる可能性のあるレオパルト戦車とその数のリストを作成するよう指示したと発表したが、独週刊誌シュピーゲルによると、国防省は軍が使用できるレオパルト2の在庫リストを昨年初夏に作成済みだというのだ。同誌によると、ドイツ連邦軍には合計312両の異なるシリーズのレオパルト2戦車があり、そのうち99両は昨年5月に軍需産業で修理中であり、1両は廃棄されたという。供与できるレオパルト2の在庫数は212両だ。シュピーゲル誌によると、在庫リストには、どのモデルがウクライナ供与に適しているかも示されているという。

ドイツがレオパルト2の供与の決定を先延ばししたことが伝わると、独連邦議会防衛委員会のマリー=アグネス・シュトラック=ツィマーマン委員長(FDP)は、「歴史は私たちを見ています。残念ながら、ドイツは失敗した」と批判、「ポーランドやフィンランドのように自国のレオパルト2をウクライナに供与する問題で、ドイツはゴーサインを送るべきだった」と主張。それに対し、SPDの連邦議会院内総務ロルフ・ミュッツェニヒ氏は、「欧州は現在、戦時下にある。戦時中の政治は怒りや喘ぎのスタイルではなく、明晰さと理性をもって行うべきだ」と反論するといった具合だ。忘れないでほしい。これは与野党間の論争ではなく、ショルツ連立政権内の論争だ。与党内の潜在的な対立が浮かび上がったといえる。SPDがレオポルト2のウクライナ供与に反対し続けるならば、緑の党からもSPD批判の声が出てくるだろう。

なお、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は20日夜のビデオメッセージで、「私たちは近代的な戦車を得るために戦わなければならない。他の選択肢がないのだ」と強調している。ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相によると、ウクライナ軍はポーランドでレオパルト2主力戦車の訓練を行う予定だという。

クレムリンのスポークスマン、ドミトリー・ペスコフ氏が強調していたように、ロシアとウクライナ間の戦争の行方はレオパルト2の供与で大きく左右されるわけではない。レオパルト2の供与問題は欧州の盟主ドイツのウクライナ支援の本気度を占うシンボルとなってきているのだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年1月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。