日本の政治は極めて情緒的で曖昧だが、その情緒性はこの50年ぐらいの間に、多分に沈静化してきた。あらゆる分野で国際化が進み、日本人だけが納得している“常識”は減った。

国会で製造した大ウソをきれいに清算する大きなきっかけが憲法改正だろう。自民が懸念しているのは国民投票であり、否決されたら党の存在さえ危うくなるとの危機感さえ持っている。

安倍氏の私案は、現行9条はそのままにして、横に「自衛隊は認める」と書くことだった。9条は非武装の象徴として扱われ、憲法学者の7割超が自衛隊は違憲だと考えているという。一方、世論調査では6割が国際情勢の悪化を認めている。

この国際情勢を見つめる正直さが、9条の存在のせいで鈍りはしないか。9条と自衛隊を結び付けて考える大欠点は、あらゆる軍事対応が日本の場合“警察的”となって、行動が一歩遅れることだ。「専守防衛」という考えは9条が生み出した考え方だが、これは相手の打つミサイルに鎌をもって待ち構えるようなものだ。

(令和5年1月18日付静岡新聞『論壇』より転載)

屋山 太郎(ややま たろう) 1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。

編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年1月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。