つまり専門紙が予想した値動きすら外れているのですが、この理由は市場が今回の大規模緩和政策維持が不自然、かつ持続不可能だと判断しているように見えるのです。疑惑や不正があったという意味ではなく、初めから答えありきで会合そのものが形骸化していたように感じるのです。その理由は前日、火曜日の東京株式市場が大きくリバウンドして上昇しているのです。普通、これだけ注目された日銀の会合を前に株価が跳ねるということはないのです。そして金融機関がほぼ異口同音に「現状維持」を予想していました。
黒田総裁が異次元の緩和に踏み込んだ2013年頃に巷で囁かれたことがあります。「緩和は簡単、だが、それを元に戻すのは至難の業」と。黒田総裁はそれにとどまらず、世界的にもまれなテクニカルな手法を次々と編み出し、「緩和の方法はいくらでもある」と豪語し、事実、その深みにはまっていきます。
昨年12月にいよいよ緩和維持に整合性が取れないとみたのか、YCCの幅を0.50%に拡大しますが、これが非難ごうごうであったのです。特に金融機関からの激しいクレームがあったものと推測しております。「黒田ステルス戦闘機」は許せないと。当然ながら日銀は金融機関との対話を求められます。私はその対話の結果が今回の金融機関の事前予想、政策決定会合での全員一致を生んだのではないかと思います。つまり出来レースです。
今回の政策の決定ではまた新たなテクニックが披露されています。その名も「共通担保資金供給オペ」。何語かさっぱりわからないですが、要は国債の買い支えを日銀だけが行うのではなく、金融機関にも協力してもらうために日銀が低利で金融機関に貸し、それで国債を買い支えよ、というものです。これでは金融機関に徴兵制度を強いているようなものでしょう。まさに赤紙です。ただ、強制力がないし、金融機関も先は読みます。「どうせ、黒田さんは3月会合が最後。日本のインフレもまだ上がりそうなバイアスだから国債価格が下落する可能性があるなら今、大本営にお付き合いすると損をするかもしれないな」と。
一方、日銀からすればこんな施策を政策決定会合で突然決めれば再び金融機関から大ブーイングです。よって多分、日銀が下地作りと根回しを金融機関に事前にした、そのために金融機関は「この根回しは政策変更をしない前提だ!」と読み込んだのではないでしょうか?
日銀人事案は2月に国会に提示される見込みです。3月19日に二人の副総裁の任期が切れ、4月8日に黒田総裁の任期が切れます。日銀を含めた世界の中央銀行はフォワードガイダンスといって金融政策の先行きや方向性をある程度示唆します。現在の人事案では誰が総裁になりそうか予想し難く、日銀のスタンスを見通すフォワードガイダンスがなく、再び直前にサプライズとなりやしないかと心配しています。
この辺りはいつみても日本的でしっくりこないというのが私の正直な心境であります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年1月19日の記事より転載させていただきました。