考えられるシナリオを羅列する。①娘がどうしてもミサイルを見たいと懇願したため(ひょっとしたら、娘の誕生日だったのかもしれない。父親金正恩氏は娘に何でもほしいものを言ってごらんと約束したのではないか)、②たまたま、その日、3人の子供を世話する世話人が病気で見つからなかった。妊娠中の李夫人1人では大変だということで、金正恩氏はミサイル発射現場の視察に娘だけ同行させた、③金正恩氏は娘を公にすることで金王朝が3代で終わらず、4代以降も続くことを国内外にデモンストレーションした、等々だ。
興味深いシナリオは③だ。当方の憶測だが、金正恩氏は多分、英国のエリザベス女王の葬儀の場面を観たのではないか。その葬儀では、ウィリアム皇太子の2人の子供ジョージ王子とシャーロット王女が同行していた。英国内では「葬儀の場に子供連れは良くない」といったコメントが見られたが、欧州王室に通じる専門家は、「そうではない。英国民から愛されたエリザベス女王の死後、チャールズ新国王、ウィリアム皇太子と英王室が続く。そしてジョージ王子とシャーロット王女を葬儀の場に同行させることで、英王室は永遠に続くことを公の場で見せる。世界の目が注がれるエリザベス女王の葬儀の場は、その意味で絶好の機会となるからだ」と解釈していた。
ウィリアム皇太子が2人の子供を同行させる姿をみて、金正恩氏は、祖父金日成主席、金正日総書記、そして金正恩総書記の3代後も金ファミリーから金王朝を継承する人物が出てくることを国民と世界に向かって見せる機会を探っていたのではないか、そこで「火星17」の発射実験の場に子供を同行させる考えが浮かんできたのだろう。その意味で、金正恩氏はエリザベス女王の葬儀から王室継承のノウハウを学んだといえるわけだ。
「火星17」が天に向かってその堂々とした雄姿を見せている。一方、その数十メートル離れたところで金正恩氏と娘が手をつないで歩きながら話している。そのシーンは映画の最高潮の場面を見ているような気分にさせる。「火星17」は金王朝を軍事的に支えるシンボルである一方、父親と娘は金王朝が永遠に続くことを示す。計算された演出とでもいえる。
ちょっと気になる点は、李雪主夫人だ。「火星17」を背景とした場面には登場していない。夫金正恩氏の傍には娘だけだ。ひょっとしたら李夫人は現在、妊娠中ではないか。寒い外に長時間いるのは健康に良くない。そこで娘が家族の代表という大役を演じた。
ちなみに、後継者問題では、実務派で行動力のある実妹の金与正党第1副部長の名前が久しく囁かれてきた。それを快く思わない李夫人は夫金正恩氏に、「後継者はあなた(金正恩氏)の直系から」と強く嘆願してきたのではないか。北朝鮮では後継者は直系の血縁者から、というのが重視される。李夫人と金与正さんの“女の戦い”がICBMの背後で展開していたのではないか、と考えられるのだ。
いずれにしても、北朝鮮が今回発射したICBMは米国領土まで届くことが実証されたことで、金正恩氏は米国との交渉カードを獲得する一方、後継者問題では「俺が倒れても金王朝は不変だ」というメッセージを発信したわけだ(以上、当方の一方的憶測だ)。
蛇足だが、北側がICBMを発射した日(18日)、ロシア軍は新しいICBM「サルマト」の発射実験に成功したと発表した。同ICBMは欧米のミサイル防衛(MD)網を突破できるほか、極超音速ミサイルシステムを搭載可能という。北の「火星17」とロシアの「サルマト」の発射に何らかの繋がりがあるのか、それとも、偶然、発射実験日が重なっただけだろうか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年11月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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