ウクライナへの重火器、攻撃用戦車の供与問題で要を握っているのはドイツだ。フィンランドやポーランドは軍が保有する独製攻撃用戦車レオパルト2のウクライナ供与を決定したが、それが実行されるためには独政府の承認が必要となる。そのうえ、供与後の両国の補給問題が出てくる。ドイツのショルツ政権がイニシャチブを取らないと事が進まないのだ。
海外への武器供与問題では、ドイツの政党の中でも与党社会民主党(SPD)と「緑の党」は本来反対の立場を取ってきた。ショルツ政権はウクライナからの武器供給要求に曖昧な姿勢を取ってきたが、ロシア軍の集中攻撃で廃墟化したマリウポリ、キーウ近郊のブジャの虐殺などロシア軍の戦争犯罪に直面し、ウクライナへの武器供給へと軌道修正し、重火器の提供にも応じる路線に変更してきた経緯がある。
SPDと共に“平和政党”を自負する「緑の党」にとって、ウクライナへの武器供給問題は大きなハードルだった。ウクライナへの軍事支援としてドイツ側が最初、ヘルメット5000個を提案した時、欧米諸国から失笑されたが、戦争の激化に伴い、軍事装備から軽火器、軽戦車、地対空ミサイル、そして現在、攻撃用戦車の供与と、ウクライナへの武器支援は重火器中心となってきたわけだ。
今回は14日、ウクライナ東部ドニプロの集合住宅に対してロシア軍の無差別攻撃だ。ゼレンスキー大統領が「明らかにテロだ」と指摘したように、民間人を狙ったミサイル攻撃だった。ショルツ政権はもはや黙っておれない。欧米側からの圧力も強まってくる。そのような中で、ショルツ首相の政党SPDに所属するランブレヒト国防相が16日、辞任した。同相に対しては、軍事問題への理解力不足などが指摘されてきた。ウクライナへの軍事支援問題の責任大臣の辞任は20日から開催される「ウクライナ防衛コンタクトグループ会議」の行方に一抹の不安を与えている。
英国のチャレンジャーの場合、数週間以内にウクライナに到着し、数日中に戦車と砲兵システムに関するウクライナ兵の訓練を開始できる。一方、ドイツのレオパルト2の供与の場合、事情は異なる。ドイツの軍需防衛エンジニアグループ「ラインメタル」(本部デュッセルドルフ)によると、ウクライナ向けのレオパルト2の主力戦車の納入は、2024年前は難しいという。アーミン・パッパーガー最高経営責任者(CEO)はドイツのビルト日曜版に対し、「明日、戦車をキーウに送ることができるという決定が下されたとしても、納入は来年の初めになるだろう」という。戦車を増産したとしても、出荷までに時間がかかるというわけだ。また、ロイター通信によると、西側諸国の大半は、戦車や重火器を国外に供与する余力が十分ではない。
戦争が1年以上の長期戦となれば、軍事大国ロシアとはいえ、ミサイルや大砲の保有数、銃弾の在庫にも限界がくるだろう。軍需産業がフル回転したとしても時間がかかる。ウクライナの場合、欧米諸国からの重火器の供給がスムーズにいくかどうかは戦場での勝敗を左右する。戦いが長くなれば、軍隊だけではなく、国民をも総動員した総力戦の様相を一層深めるだろう。独製攻撃用戦車レオパルト2がウクライナで活躍する前に、停戦が実現することを願うが、現実は戦闘の激化が予想されるのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年1月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。