今日の時計界で最も権威ある品評会に数えられるのが、世界中の時計ジャーナリストや業界関係者らによる投票で決まる、ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(略称GPHG)だ。2022年も11月にそのグランプリ発表が行われ、時計界を賑わせたばかりである。GPHGには、メジャーマイナー問わず様々なブランドがエントリーしているが、とりわけ、これをきっかけに一躍脚光を浴びる小規模ブランドは少なくない。“クドケ”も19年に同グランプリで“小さな針賞”を受賞し、脚光を浴びたブランドのひとつだ。

“個人のための時計こそが真のラグジュアリー”という理念を掲げるクドケ氏は、デザインからパーツの切り出し、彫金、ムーヴメントの組み上げに至るまでのほぼ全工程をひとりで行う。そのため生産量は年間70本ほどに限られるが、出来栄えは美術工芸品と言える趣で、多くの時計愛好家を虜にしてきた
07年にステファン・クドケ氏が自身の名を冠して立ち上げた同ブランド。現在では、優れた彫金師であり独立時計師(21年にアカデミー正会員認定)でもあるクドケ氏の、類希なる才能が発揮された二つのコレクションが軸となっている。
ひとつが彫金師としての優れた技術と審美性が盛り込まれたスケルトンウオッチの“クンストヴェルク(ドイツ語で芸術作品の意)”コレクション。そしてもうひとつが、18年に完成させた自社ムーヴメントを搭載する“ハンドヴェルク(手作業の意)”コレクションである。
いずれも独創的で魅力あふれるコレクションだが、今回フォーカスするのは後者。先のGPHG2019受賞作でもある“クドケ2”の魅力に改めて迫りたい。

クドケ2
自社ムーヴメント搭載モデルの第2弾であり、GPHGで小さな針賞を受賞したクドケ2。印象的なデイナイト表示と、無限大を意味する“インフィニティ―ハンド”と名付けられたユニークな形状の針と組み合わせることで、シンプルな2針時計に強烈なオリジナリティーを与えている。
■SS(39mm径)。5気圧防水。手巻き(Kaliber 1 in version 24H)。132万円
本作の魅力は何と言っても、個性的な自社ムーヴメントを搭載したハンドヴェルクコレクションでありながら、同時にクドケ氏の卓越した彫金技術を味わうことができるという点に尽きるだろう。文字盤の12時位置に据えられているデイナイト表示は、氏自身が手作業によって仕上げたもの。

このデイナイト表示をよく見ると、ドーム状になっていることにお気づきになるだろうか。ドーム状にすることにより文字盤の立体感をいっそう際立たせ、表情をさらに豊かにしている。ただ一般的な平面ディスクよりも、当然ながらドーム状のディスクにエングレービングを施すほうが作業ははるかに難しい。
まさしく氏の彫金師としての高い力量を示すとともに、工芸品さながらの芸術性を併せもったモデルなのだ。