顧客データの個人情報の受け渡しで注意すること

今後、企業のオーガニックグロースが無理になってきた今、M&Aが成長のためのキーとなり、この技術をもたない企業は淘汰されるだろう。
特に専門商社や旧態化したアパレルにはM&A人材がいない。私は、こうした企業はプライベート・エクイティファンドと組むべきだと考える。経営戦略室をつくり社内で知性が高く、リーダーシップがある人材と2~3年一緒に仕事をやらせればよい。単なる座学であるMBAをとるよりよほどよい。
さて、こうしてM&Aが進んだとき悩ましいのが「顧客の統合」である。例えば、カバン屋さんと靴屋さんが合併した場合を考えてほしい。当然、合併したのだから、双方の顧客情報は新会社の資産であると考えるだろう。
しかし、今までカバンのDMしか送っていなかった顧客に、同じ会社だからという理由で、靴のDMを送ってよいのだろうか。仮に送った場合、顧客が「せめて送ってよいか聞くのが筋だろう」と怒りだした場合、どうなるだろうか。法的解釈は専門家に任せるが、ビジネス上の顧客に対する不利益供与をどうするか、という点をクリアにしなければならない。
これは実際にあった話だが、クライアントはせっかく統合したのだからクロスセルをしたい、だけど全員に「はい/いいえ」を聞くのは面倒だ、と主張する。
議論が一向に深まらないため、私はこのように整理を促した。
「顧客は3つに分類される。一つは、カバン屋しか情報を持っていない客①。もうひとつは、カバン屋さんも靴屋さんも持っている客②。 次に、靴屋しかもっていない客③。この①、②、③」だけですね。と私はホワイトボードで問いかけた。
みなは納得した。理論上、これ以外の客は存在しないからだ。問題は、この②である。私の提案は、別に②をカバン屋と靴屋で突合する必要は無いというものだった。まず、双方の顧客にカバン屋は靴屋、靴屋はカバン屋の商品を購入したことの有無を聞く。そうすれば、突合されていない②がわかるわけだ。このカバン屋からみた②と靴屋からみた②は、見る角度が違うだけで、結局はおなじクラスターであるということだ。だから、それぞれが、それぞれの買い回り情報を持っておけば良い。いずれ、おなじ購買行動を繰り返すことでAIが人物を自動突合するだろう、というものである。
私のこの提案には誰もが驚いていたようだ。結局、同じ会社だからということで、顧客情報の法的問題、商売倫理上の問題などをうまく整理できなかったのである。
ただ、今後は、同じ人間、同じクラスターが複数存在し、その購買する人物は同じ人間かもしれなければ、違うかも知れないような複雑なケースが山のように出てくることも考えられる。
その場合、データサイエンティストがAIをうまく使いこなし、切り口を変えながら分析する必要がある。企業の統合が進むこれからは、こうした顧客統合の問題が山のようにでてくるだろう。
プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html
提供元・DCSオンライン
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