日本の前例アルゼンチン

このような日本にした前例が一つある。アルゼンチンだ。アルゼンチンは20世紀初頭から1920年頃まで米国に次いで最も豊かな国とされていた。穀物と肉の輸出は世界の7%を占めるまでになり、ラテンアメリカのGDPの50%はアルゼンチンが占めていたほどだった。

世界恐慌そして戦後のアルゼンチンは経済を復活させるのに基幹産業を国営化し、また労働者にも恩恵が渡るように公共支出の増大を図った。それを遂行したのがリーダーのペロン将軍であった。一時的には景気は回復した。しかし、最終的にもたらしたものは財政赤字とハイパーインフレであった。それから脱出するために輸出を奨励して外貨を稼ぐのではなく、国内の産業を発展させようとした。

ペロン将軍はカリスマ性が高いこともあって、国民から崇拝された。だから一時の経済の立て直しに成功しただけであるのに、彼の功績を讃えた政党が誕生した。それが正義党(別名ペロン党)である。この正義党がアルゼンチンの政権を現在まで担って来ているのだ。途中、3人の大統領が他政党から誕生し軍事政権もあったが、正義党がアルゼンチンの運命を今日まで担って来た。これまでの正義党の政治はペロン将軍が実行したこととあまり変わりはない。そしてペロン将軍と同様に輸出への取り組みは今も積極性に欠ける。だから、アルゼンチンでは外貨の不足が慢性的になっている。

この一つの政党による政治がもたらしたものは経済の後退とハイパーインフレである。経済の後退は日本も同じ道を歩んでいる。現在のアルゼンチンのGDPは世界で24位だ。この100年間で2位から24位に転落している。

ハイパーインフレの要因はアルゼンチン政府は体質的に歳出の削減ができない国なのだ。毎年の財政赤字を紙幣を増刷して補っている。これはインフレを誘発するそのものであるが、それをアルゼンチンはこれまで実行して来ている。昨年だとGDPの4.8%に相当する額の増刷を実行している。その額は日本円にしておよそ1兆5600億円だ。その増刷が間に合わなく、スペイン造幣局もそれに協力した。

日本も似たようなことをやっている。即ち、国債を担保に紙幣を増刷して、政府の債務を増やしているということだ。

アルゼンチンはその結果、昨年のインフレはまだ正式統計は出されていないが、100%近くのインフレだ。来年も同じような高いインフレが予測されている。

例えば、1973年から2018年までにアルゼンチンの累積インフレは1670%。またアルゼンチンの場合に高いインフレを発生させる要因としてもう一つ上げられるのは市民が自国の通貨を信頼せず、米ドルを持ちたがることである。米ドルに対してペソはいつも価値を失っている。それもインフレを煽る要因となっている。この高いインフレが足かせとなって成長を遂げる経済政策が実行できなくなっている。しかも、高い金利とで外国の企業にとってアルゼンチンへの投資は魅力が少ない。

市民は毎日買い物をしても、その総額がいくらになるか買ってみないと分からないという状態にある。それが生まれた時から亡くなるまで、そのような環境の中で生活しているのである。

日本はインフレは低いが、国民の知らない間に政府の債務は国債に化けて、それを多くの市民が手にしている。何れ、国債が売却できない状態になったらどうするのであろうか。政府は国債の発行にも限界に至りつつあり、政府から率先して企業を活性化させる投資もできなくなりつつある。

また日本は財政破綻すれば国債は紙くず同然になる。その可能性は今の自民党の政権が続く限り存在している。

アルゼンチンはハイパーインフレ、日本は国債による負債の増加というのがそれぞれ足かせとなって経済の進展を阻んでいる。