デカップリングというような荒っぽい状況の中で、息を潜めて周囲を静観しているのは日系企業だが、実は円安によって利益が落ちてきたから帰国しようと踏み切る会社が続出している。
元内閣官房参与の加藤康子氏によると、安川電機が国内生産比率を50%以上に引き上げる他、キヤノンが栃木県に半導体製造装置の工場を作った。アイリスオーヤマ、ワールド、ダイキン工業といった企業も国内生産に軸足をシフトしつつあるという。日本商工会議所会頭に就任した三菱商事相談役の小林健氏は毎日新聞に対し「企業の製造拠点を日本に呼び戻す」と決意を述べている。
昨年10月、米バイデン政権は「前例がない」民生半導体の対中国輸出規制に乗り出した。中国の「軍民融合戦略」に対抗し、最新兵器に欠かせないAI(人工知能)やスーパーコンピューターに使われる先端半導体の開発能力を削ぐことが狙いだ。日本では昨夏、政府肝入りの半導体製造の新会社ラピダスが誕生した。
中国が半導体をこれまで通りに扱えるとしたら、軍事技術までも世界一になる。こういう事態は二度と起こさないというのが日米の強い意志だ。
(令和5年1月11日付静岡新聞『論壇』より転載)
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屋山 太郎(ややま たろう) 1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年1月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。