イラン当局は、抗議デモ参加者に対し、死刑判決で脅す一方、イラン検察が昨年12月4日、風紀警察を廃止する意向を表明し、抗議デモを取り締まってきた責任者を解任するなど、国民の抗議デモに譲歩を示し、硬軟両面の対応を繰り返してきている。ライシ大統領は昨年12月3日、テレビで演説し、「私たちの憲法は、強力で不変の価値と原則を有している。しかし、その内容を柔軟に実施する方法はある」と述べ、女性への服装規定について柔軟に解釈する可能性を示唆してきた。

イランの精神的指導者アリ・ハメネイ師は7日、アフマド・レザ・ラダン将軍をホセイン・アシュタリ氏の後任として警察署長に任命した。ハメネイ師は警察に対し、「能力の向上」と「様々な治安部門の特別部隊の訓練」を命じている。ラダン将軍は、前任者のアシュタリ氏と同様にイランの精鋭部隊「イスラム革命防衛隊」(IRGC)出身者だ。ラダン氏は2010年に米国から制裁を受け、後に欧州連合(EU)からも、2009年のイラン大統領選挙後の抗議行動に関連した「人権侵害」で制裁を受けている。

イラン国営通信IRNAによると、IRGCの最高司令官ホセイン・サラミ少将は10日、シスタン南東部とバルチスタン州の州都であるザヘダンで演説し、「敵は暴動を扇動することによってイランに不和と分裂の種をまこうとしている」と主張し、敵対的な陰謀を断固として阻止する姿勢を改めて強調した。ハメネイ師は、「国内の抗議デモの背後で米国やイスラエルが画策している」と批判してきた。

なお、イラン出身ドイツ在中のイラン問題専門家、ナタリー・アミリ女史は10日、オーストリア国営放送とのインタビューの中で、「イラン国民は44年間続いてきたイスラム教国家の体制チェンジを願っている。抗議デモは既に4カ月間も続いている。イランの過去のデモは中産階級や学生、労働者を中心としたものだったが、今回は女性が立ち上がり、クルド系の少数民族系の国民と連携しながらデモを行っている。国の民主化はイラン国民の手によってしか実現できないが、ドイツなどEU諸国はイランのIRGCをテロ組織に認定すべきだ」と述べている(米国は2019年4月、IRGCをテロ組織と認定している)。

なお、未確認情報だが、首都テヘランでは当局への抗議の意思表示として女性の4分の3は現在、スカーフを着用していないという。

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編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年1月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。