さて、エーザイ/バイオジェン社が開発したアルツハイマーのクスリ。さて、どれだけ期待できるのか、ですが、私が理解する限りはエーザイ社は研究開発者の努力の賜物として十分に称えるに値する結果を生み出しましたが、業績には目先ほとんど響かないとみています。また患者がそれを服用することで進行が遅延したということを実感するには5-10年以上かかるかもしれないと考えています。
アルツハイマー症の原因はまだ不明であり、医学界でもいくつかの仮説を前提に実験を繰り返しています。その中の一つが老人斑(アミロイド斑)と称されるものでこれが神経細胞外に沈着したものが引き起こす可能性が指摘されています。このアミロイド斑の主成分がアミロイドβ(Aβ)と称されるもので今回、エーザイのクスリはこのアミロイドβを減らすことをその目的としています。
私が理解する問題点はこのアミロイドβの蓄積は数十年にわたって徐々に行われるため、明白な発症をした時には十分に蓄積されてしまっていることです。エーザイのクスリはあくまでも認知症の進行を遅らせることであり、その効果は18カ月投与すれば27%程度あるとされます。しかし損傷した神経細胞を直すわけではないのです。つまり、このクスリは明白な症状が出る前に投薬をする必要があるのです。
事実、同社のプレスリリースには「…AD (アルツハイマー症)による軽度認知障害または軽度認知症の患者において開始する必要があり…」とあり、リリース後半に「重要な安全性情報」として「これらの病期よりも早期または後期段階での治療開始に関する安全性と有効性に関するデータはない」とあります。
ではアミロイドβが神経細胞に蓄積しているかどうか、どうやって調べるのか、と言えば極めて限定されているとされます。逆に言えば今まで有効なクスリが開発されなかったのは治験者が見つけられなかったともいえるのでしょう。PETや血液検査の方法もなくはないようですが、あくまでも研究レベルの段階であり、治療の検査としての横展開ができる状態にあるとは思えません。
エーザイは21年にアデュカヌマブという同様の医薬品も開発したのですが、アメリカで条件付き承認を受けただけで日欧では承認されませんでした。その売り上げは22年1-9月でわずか5億円程度にとどまっています。当時メディアでは大々的に取り上げられましたが、ビジネス展開にまで至りませんでした。だからと言ってエーザイには諦めてもらいたくないのです。世界的大手の医薬品メーカーがほぼ全滅だったアルツハイマーのクスリが承認までこぎつけられたのは長い将来、必ず、その解明とよりよい薬の開発への一歩となるはずです。今後、迅速承認からフル承認に向けて動くとありますので期待したいところです。
ところで日本の認知症患者は700万人程度いるとされますが、アルツハイマー型の認知症を患っている人はその半分とされます。それ以外の人はレビー小体型認知症など他の原因とされます。つまり、今回のクスリは認知症の全ての人に効くのではなく、認知症の全体の約半分ぐらいのアルツハイマー型の人が対象になります。
こう考えるとクスリの開発への期待は高まりますが、当面は我々は自己防衛する必要があること、そしてアミロイドβが2-30年かけて蓄積されていくということはたぶん50代になったら認知症予防を心がける必要があるのです。65歳での認知症発症は16%、85歳で30-40%、95歳50-80%が認知症になるとされます。そして75歳から上は男性より女性が認知症になりやすいという有意なデータがあります。
以前にも指摘しましたが、スマホに頼る社会、おひとり様社会は刺激度が少ないですからコミュニティへの参加など積極的な社会との共生がより重要だということになります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年1月9日の記事より転載させていただきました。