憲法改正に向けて国民の9条2項に対する関心はかなり高い。これを考慮して安倍氏は9条1・2項はそのまま置いておきながら、同条に「自衛隊」を併記する案を出した。非武装論者と同居しようということだが、こういう配慮は逆に再び国民を迷走させるのではないか。これでは国民が一体となって国を守ろう、という高揚した空気は生み出せない。

私が中学1年生の時、空襲で自宅一帯を丸焼けにされたが、被害は国民が一体として受けたものだという認識があったから早々に諦めがついた。こういう感覚を運命共同体というのだろう。

一方、戦後の「非武装・中立論」全盛時代の雰囲気はどうだったか。誰もが互いに非武装で「安全だよなあ」というような雰囲気は全くなかった。米国とソ連が張り合っていたからロシアは日本に手を出さなかっただけだ。終戦に至っているにも拘らず北方領土を獲りに来たり、北海道を半分寄こせと言ったりした事実もある。日本の平和は国際情勢の偶然によって保たれていただけだ。

22年末の読売新聞の全国世論調査によると、防衛費を今後、総額40兆円を超える規模にまで増やす方向としていることについて、「賛成」が51%と過半数を占めた。原子力発電の運転期間の延長についても、やはり賛成が51%を占めた。同調査による岸田内閣支持率は39%で、不支持は52%と高かった。

政策に対する支持率が高い一方で、内閣支持率が40%を切るのはありふれた傾向ではない。岸田内閣の政策実行のスピード感にも不満の一因があるのではないか。

岸田内閣の時代に日本有事が起こるかもしれない。一刻も早く改憲すべきだ。

(令和5年1月4日付静岡新聞『論壇』より転載)

屋山 太郎(ややま たろう) 1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。

編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年1月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。