3 交通分野での脱炭素
本節こそ、本論文の著者が最も強調したい内容であろう。まずは現在、世界の交通の99.7%が内燃機関(ICE:internal combustion engine)で動いており、そのエネルギー源の95%は化石燃料由来であると著者は述べる。
交通(特に自動車)の電動化には幾つか種類がある。バッテリーだけで動くBEVs(battery electric vehicles)、内燃機関と外部充電バッテリーを併用する「プラグイン・ハイブリッド」PHEVs(Plug-in hybrid electric vehicles)、トヨタ・プリウスのような古典的な「ハイブリッド」HEVs(hybrid electric vehicles:内燃機関で発電してモーターで走る)などである。
※ 筆者注:現在ではPHEVとHEV間で車の構成自体に実質的な差はないので区別する意味はさほどない。
なお、ハイブリッド化の意味は、脱炭素と言うよりも、単にエネルギー効率(=燃費)の向上にある。実際、トヨタ・プリウスが出現した時にユーザーを驚かせたのは、当時としては驚異的な燃費の良さであった。
世の中一般には、完全電動のBEVsこそが「ゼロエミッション」であり、これから内燃機関に取って代わるべきと広く信じられている。他の選択肢としては、再エネ発電で生産した水素で走る燃料電池車(FCV)や低炭素燃料などがあるが、いずれも種々の問題点を抱えており、現在世界で毎日1100万ℓもの化石由来燃料を使っている交通分野に、大きな影響を与えることはない。
※ 筆者注:再エネで発電したのなら、その電力で充電してEVやPHEVを走らせたら良いだけの話で、何もわざわざ電力を消費して水素を作り、燃料電池で走らせる意味はほとんどない。エネルギー的にも設備コスト的にも、無駄=浪費が大きい。強いて利点を挙げれば、バッテリーが不要なことであるが、700気圧と言った高圧水素タンクを積むなど、FCVには安く作れない条件が多い。
現状、BEVs(電気自動車)は、自家用車やバンのような低負荷用途車LDVs(light duty vehicles)にだけ使われており、それは世界の交通の約45%程度を占める。他の、トラック・重機等の高負荷・長距離輸送用途車や、船舶(水上輸送)、また航空用には、電動化の壁は高い(つまり、この分野での内燃機関依存は当分避けられない)。
例えば、エアバスA320のような中距離ジェット機をリチウムイオン電池で飛ばそうとすると、最大離陸重量の19倍の重さになる(本稿冒頭で、軍用機の例も挙げた)。
現在、世界で13億台のLDVsが走っており、2040年までには17〜19億台に増えると予想されている。英国には約3600万台のLDVsがあり、一方2021年末現在のBEVsは36万台(=1%)に過ぎない。つまり、今走っているLDVsを全部電動化するには、今の電動車を100倍増やさないといけない。LDVs以外の車も電動化しようとすれば、必要なバッテリー容量はさらに大きくなる。それは現状、環境的・資源的な負荷が大きすぎて、持続不可能である。
2021年末現在、世界では約1250万台の(広義の)BEVsがあるが、その70%はプラグイン・ハイブリッド車である(完全電動車は少ない)。その半数以上は中国にある。そして、問題は電気自動車に使われるバッテリー製造に関わる環境負荷についてであるが、それについては次回で詳しく紹介する。
(次回につづく)
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