中国からの渡航者への予備措置ではEU27カ国にはまだコンセンサスがない。国内の医療機関が新規感染者受け入れが厳しくなっているフランスやスペインは中国からの渡航者に対し、コロナ感染の陰性証明書の提示やワクチン接種証明を入国時に提示することを要求している。一方、ドイツやオーストリアは特定の国からの渡航者への規制強化には消極的だ。
ドイツの場合、社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の3党から構成されたショルツ連立政権内では発足当初からコロナ対策ではコンセンサスがない。幸い、ワクチン接種が広がり、国民の免疫が強化されたこともあって、オミクロン株による新規感染者は増加しているが、重症化は少ないことから、コロナ規制は段階的に撤去されてきた。FPDではここにきて「コロナ規制の完全な撤回」を要求する声が高まっている一方、SPDのラウターバッハ保険相は「現時点でコロナ規制の完全撤回は軽率だ」と消極的だ。
隣国オーストリアは観光国だ。中国旅行者が落とす観光費用は重要だから、中国旅行者に対する検査義務には観光業界、ホテル業界から強い抵抗がある、といった具合だ。
中国からの渡航者への検査義務などで共通の予防措置が取れない背景には、中国当局からの新規感染に関連するデータが入手できないことだ。中国では感染者は増加しているが、変異株が出てきたという情報はまだない。最悪のシナリオは、感染力があって、致死力のある新しい変異株の登場だ。
世界保健機関(WHO)は12月30日、中国当局に、国内の新型コロナ・ウイルス感染状況に関するリアルタイムかつ具体的な情報を定期的に共有するよう再度要請した。WHOは中国当局に、入院、死亡、ワクチン接種に関するデータに加え、遺伝子配列データもさらに提供するよう求めている。
未確認の内部推計によると、中国での大規模な感染で先月最初の3週間に2億4800万人がコロナに感染した。それは人口の18%に当たる。中国南西部の四川省の8100万人の住民、首都北京の2100万人の住民の半分以上が感染しているという。専門家の予測によると、数十万人の死者が予想されている。中国当局は感染者数、死者数の公表を中止したため、感染爆発の全容把握が益々難しくなってきた。

習近平国家主席 中国共产党新闻网より
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年1月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。