第五章は「脱石油」の世界的流れの中、今でもやはりエネルギーの中心にある、「石油」をめぐる中東の事情です。断片的にニュースで聞いたことがある中東関連の事件などが、この章を読んで僕の頭のなかで繋がりました。著者の岩瀬さんのご専門の石油から連想して岩瀬さんは中東に長く滞在されていたものと思っていましたが、21年間の海外在住のうち、中東滞在は2年間で、マーケットそのものはニューヨークとロンドンにあるとのことも僕に取って新鮮な情報でした。
第六章は、各国・地域事情から離れて、気候変動に関する世界的な動きに関するお話です。特に「京都議定書」と「パリ協定」。COP26およびCOP27での各国動向と再エネに関する岩瀬さんのお考えに僕自身は大きく賛同しました。各国の事情に応じたエネルギーベストミックスを実現化し、それぞれエネルギー効率を高めていくのがエネルギー安全保障を考える上で王道であることは、それ自身極めて当たり前のことですが、第一章から六章までの「これでもか!」という各事例で、その王道が王道たる理由がよくわかります。
そして、第七章が日本のエネルギー政策への5+1の提言です。その5つとは、「国民の啓蒙」「国際貿易推進」「技術革新」「備蓄」「国家百年の計に基づくエネルギー政策」そして、+1は「したたかに振舞う」こと。本書で、あまり詳しく触れていないのが、原子力と石炭で、どちらも発電に関しては主要なエネルギー源です。しかし、それらは供給元が安定していて、上記5+1の提言のうち、「国民の啓蒙」以外は石油、天然ガスの確保の方がより深刻な問題なのかもしれません。
現在日本では電力料金の高騰や再エネ、原子力再稼働のニュースが溢れていて、エネルギーと言えば電力のことだと勘違いしている人が多いですが、日本の全エネルギー消費のうち、電力は「投入ベースで4割、消費ベースでは4分の1だけしかない」ことは国民全員が最低限の知識として知っておくべきだと思いました。
「おわりに」では、なぜ「ビジネス社」という無名の(?)出版社から本書を出したかの経緯が書かれています。その部分を読むだけで、著者の岩瀬昇さんの仕事に対する態度がわかり、本書を1760円払って読む価値が大いにあると感じさせるものがありました。
本書を読んで、勉強とは学校だけでやるものではなく、むしろ学校を卒業してからが大切。人生常に勉強し続けないといけないと強く思いました。エネルギー関係の世界のそして日本の情勢を勉強する教科書として本書を強くお勧めします。
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動画のノギタ教授は、豪州クイーンズランド大学・機械鉱山工学部内の日本スペリア電子材料製造研究センター(NS CMEM)で教授・センター長を務めています。
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