中国でゼロコロナ政策から大転換した後のコロナ感染拡大に対して諸外国が入国規制などを強化し、それに呼応するかのように岸田政権の入国時検査強化政策が打ち出されている。

この事に対して、保守系論客を中心に岸田政権の政策の中途半端さ、手ぬるさを批判する声が高まっている。その論旨は入国規制の強化をするべき、危機管理の基本として厳しく措置をして、状況を見ながら大丈夫そうだったらその時点で少しずつ緩めるべきだとの主張である。

以前も強調したが、この主張は根本的に間違っている。それは危機管理の本質、リスク管理との違いを全く理解していないと言わざるを得ないからだ。

間違えないで頂きたいのは、決して岸田政権の政策を擁護している訳では無く、全く本質を外しているというのが素直な感覚なのだが、批判の方向性も全く筋違いであり、あくまで是税比で違うと言いたいのだ。

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危機管理とリスク管理

まず基本から話す。危機管理とは実際に発生している危機事態に対して、その被害を最小限にするための対応であり、そのマネジメントである。

つまり実際に危機事態が発生しているから危機管理が必要になるのであり、危機事態が発生していない状態での未然予防を危機管理とは言わない。従って、実際に発生している危機事態を現実のものとして、その波及範囲を正確に把握する所から始まる。波及範囲は、可能性を否定できなければ除外することなく波及範囲の可能性として考えるのが普通である。そして徐々に波及範囲を狭めていきながら被害を抑えていくのだ。

間違えてはならないのは、波及範囲とは被害の範囲なのである。もちろん、危機事態において全ての被害が把握できている訳では無く、その波及範囲の特定に骨を折るのは当然だが、それでも被害も起きていない範囲をカバーする訳では無いのであり、リスクを最大限に考慮するのとは根本的に意味が違う。

一方でリスク管理とは、想定されるリスクをリスク発生時の被害規模と発生確率を事前にそれぞれ評価し、その乗数でスコアリングされるリスク値を受容できる値に低減させるための取り組みである。

リスクスコアの時点で、最大のリスクという概念ではなく、客観的に評価されるリスク値を前提としなければならず、リスクを訳もなく最大化する考え方は根本的におかしい。それでは即ちゼロリスク思考に他ならないのである。

保守系論客の危機管理思考は、危機も発生していない状態で危機管理と言い、本質的にリスク管理を語るべき状況にもかかわらず、危機管理の波及範囲最大化を誤用している。

この誤用の基本要因は、対中国の姿勢として、厳しく当たるべきとの思考回路を基礎にした発想なのだろう。その発想自体に異論はない、いや寧ろその姿勢は重要だろうが、だからといって危機管理の誤用が容認される訳では無いのだ。