失われるドイツ産業の優位性
ドイツは従来、ロシアからパイプラインで大量安価に供給される天然ガスを産業用のエネルギー源とし、気候変動対策で拡大する風力・太陽光などの再エネ電力の出力変動調整も安価な天然ガス発電で行い、さらに国際競争に晒されている鉄鋼や化学といった企業群に対して、再エネ賦課金を大幅に減免する措置(コスト負担は家庭部門に片寄せされてきた)を講じるといった、手厚い産業保護的なエネルギー政策により、EU域内の製造業の中心地という地位を確保してきた。
それがこれからウクライナ紛争以降、ドイツの産業界はエネルギー供給を高コストのLNGに依存せざるを得なくなり、再エネの拡大を進めてもガス火力による出力調整コストも高騰するので電気代の上昇は不可避、さらに従来減免されてきた再エネ賦課金についても、インフレにあえぐ家庭部門の電気料金負担緩和の必要性から縮減される政策リスクに直面する可能性は高い。加えて現ドイツ政府は、稼働中の最後の3基の原発も、本年末に全停止して廃止する計画で、今のところそれを変更するつもりはないようだ。
こうしてみたとき、巨大なEU経済圏の中で最強の経済力を誇り、一大産業集積地として栄華を極めてきたドイツ産業帝国が、いまや危急存亡の危機に直面しているというのが実情ではないかと、いささか同情の念を禁じ得ない。
しかし考えてみればこれで、高コストの輸入LNG依存、高騰する中でも減免されない再エネ賦課金、遅々として進まない原発再稼働といったエネルギーコスト上のハンデにあえいできた日本の産業界とほぼ同様の、構造的なエネルギー問題に、ドイツ産業も直面することになるというわけである。
Welcome to Japan!
“Welcome to Japan!” 自動車、機械、鉄鋼、化学といった産業集積とその輸出競争力を国の強みとしてきた日独産業間の競争において、従来ドイツ産業に構造的な恩恵を持たらしてきたロシアのパイプライン天然ガスをドイツが失った後、日本から見てある意味でフェアな産業競争環境がもたらされると考えることもできる。
同じ構造的なハンデキャップを負った両国産業の競争の行方は、ウクライナ紛争後の世界のエネルギー事情を見据えて、両国が取り組む産業エネルギー政策如何にかかってくる。
文・手塚 宏之/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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