苦しむドイツ
ウクライナ紛争に伴ったロシア制裁と、その報復とみられるロシアによる欧州への天然ガス供給の縮小により、欧州の天然ガス価格は今年に入って高騰を続け、8月半ばには1メガワットあたり250ユーロと、3月の水準から約3倍に上昇している。その結果、独の大手エネルギー企業のユニパーは今年上半期の業績として、120億ユーロ(約1.65兆円)に上る巨額の赤字を計上した。
独政府は既に今年7月の段階で、ガスの調達価格の高騰と販売価格の逆ザヤにより経営が悪化する同社に対して、2.7億ユーロ(約372億円)出資し、株式の約30%を取得して経営に参画することを決め、またドイツ復興金融公社から同社への与信枠の拡大をするなど、経営支援策を講じるとともに、今年10月1日からは、国内すべての天然ガス会社に対して、ロシア産天然ガスから代替供給への切り替えコストを価格に転嫁できる賦課金の仕組みを導入して経営を支えることを決めている。
その結果、ドイツ国内の企業、家庭などガスの消費者は、この秋からガス料金には1kWhあたり2.419ユーロセント(約33円)の賦課金が課されることになるが、これは年間のガス使用量が2万kWhの平均的な家庭の年間負担増が575ユーロ(約8万円)に上ることを意味する。
その激変緩和策として、ドイツ政府は8月18日、企業や家庭向けガス料金にかけられている付加価値税を、10月初めから現行の19%から7%へと軽減する一時的措置(24年3月末まで)を導入することを発表した。
ガス会社の調達コストが3倍に跳ね上がる中、税率の12%軽減程度の対策では、価格の高騰に対して焼け石に水にしかならないだろうから、この秋以降、ドイツ社会では家庭も企業も含めた深刻なエネルギー危機が顕在化することになる。
いつまで続く?ドイツのエネルギー危機
ではこのドイツのエネルギー危機は一時的な危機の留まるのだろうか? 仮にウクライナ紛争が1年以内の早期に収束したとしても、さすがに以前のドイツのように、天然ガスの過半をロシアからの輸入に依存して、パイプラインを通じて安価に大量調達するというわけにはいかないだろう。
問題はロシア以外の天然ガス代替調達先であるが、大規模な供給が早期に可能な地域は、カタールなどの中東、シェールガス生産拡大が可能な北米、豪州の3地域になるが、これらの地域からの天然ガスの調達はパイプライン調達というわけにはいかず、いずれも液化天然ガスの形で専用のLNG船を使って輸入することになる。
液化天然ガスのコストが、パイプラインでガスのまま供給される天然ガスの数倍に昇るということは、全てのガスをLNGの形で輸入せざるを得ない日本の経験を通じて明らかだ。