ムクゲノ花ガ咲キマシタとBTS:韓国人の〝核〟観

北朝鮮民族のみならず韓民族にとって〝核〟とは一体何なのか・・・『第二次世界大戦末期に米国が降下した広島・長崎の原爆が、日帝の植民地支配から民族を解放した』という善なる側面を持っているのである。

北朝鮮の核開発の始祖の一人である李升基(イ・スンギ)について、かつて私はその人柄に触れたことがある。彼は日帝支配下で全羅南道の故郷から京都大学に入学して、戦時中からの壮絶な苦学の末ノーベル賞にも値するともされる研究成果をあげた。日帝支配が解けて韓国に帰国したが、朝鮮戦争後に義憤に駆られて北朝鮮に入り仲間の研究者とともに北朝鮮の核開発に先鞭をつけた。

であるから、同様の心情は当たり前のように韓民族の間にも息づいて来ている。

『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』は1993年に韓国で発売された小説である。映画化もされている。韓国の実在した天才物理学者の謎の死を巡って、朴政権時代の韓国の核開発を追う展開のフィクションである。

dzika_mrowka/iStock

〝ムクゲノ花ガ咲キマシタ〟とは韓国の国花であるムクゲを原爆に見立てて、〝核攻撃のゴーサイン〟を意味する。南北が共同して日本に核攻撃を仕掛けるという筋立てである。この小説は発売から1年で300万部以上を売り上げたという脅威的な記録を持つ。そこに韓国人の核観を見てとるのは自然なことではないだろうか。

比較的最近では2018年にKポップグループ・防弾少年団(BTS)のメンバーが、日本への原爆投下を描いたTシャツを着た姿がSNS上で拡散され、TV出演がキャンセルされるなど大変な物議を醸した。

私が言いたいのは、韓国人の核観は日本人とはかなり違う。そして核開発ではるかに前を進んでしまった北朝鮮には極めてアンビバレントな感情を持っているということである。

仮に将来いつの日にか分断国家の統合があるとすれば、民族の主体性の名の下に事実上の核保有国である北朝鮮を基軸にした統合ともなりかねない——そう思うのは私だけだろうか?

日本はどうするのか

日本はNPT体制の超優良生であり、政府はあいも変わらず〝NPT体制堅持〟の方針である——誠に善きことかな、と思う。しかし、〝韓国には核不拡散防止条約(NPT)を脱退して核武装する権利がある〟という論はそのままそっくり日本にも当てはまるのではないか。

日本の核武装論はいつまでたってもそのベースが感情論であり、具体的な制度の変容の可能性とそれに伴い発生する科学技術的な可能性と責任という視点も含めた議論がなされてきていない。

この問題にもっと正面から真面目に取り組まなければ、国家の安全保障は成り立たない。そうなればエネルギー安全保障も経済安全保障も砂上の楼閣にすぎなくなってしまう。