締め切りは自ら決める・提案・交渉するもの
ではたとえば上司から「これ10日でやっといて」と依頼を受けた時、具体的にどうすればいいのだろうか。
中島氏の場合は「まずはどのくらいかかるかやってみるので、スケジュールの割り出しのために2日ください」と、上司から指定された期間の2割を仕事の見積もりのための調査期間としてもらってから判断するという。
中島氏はその調査期間に、本人曰く「猛烈に」仕事に取りかかり「8割方できた」という感覚が得られたら上司が提案した期日で引き受け、8割できなかった場合は期日の延長を申し出るのだそうだ。
仕事の締め切りを測る・見積もるために一度仕事に取り組むという中島氏のやり方は秀逸だが、筆者がここで強調したいのは中島氏が仕事の締め切りを自ら決める・提案・交渉するものだと考えていることだ。
彼は相手から言われるがままの締め切りで受けるのではなく、一旦仕事にとりかかり、その仕事にかかる時間を慎重に見積もったうえで相手の提案通り引き受けるか否かを判断した。
こうした習慣・姿勢をもっていたからこそ彼はプログラマーの世界で「一度も納期に遅れたことがない男」として活躍できたのだ。
外資系コンサルは品質と納期を「松竹梅」で提案するベストセラーを含む20冊以上の著者であり、外資系コンサルティングファーム出身の清水久三子氏は、著書『外資系コンサル流・「残業だらけ職場」の劇的改善術 「個人の働き方」も「組織の体質」も変わる7つのポイント(PHP研究所 2017)』の中である方法を紹介する。仕事の締め切りを相手と交渉する手法『松竹梅プラン』だ。
たとえば上司から売上についてのレポートを求められた場合、以下のように仕事の品質と納期を松竹梅で提案する。
松「地域別の売上を出すだけなら1時間で出せます」 竹「店舗別の売上だと、3時間かかります」 梅「店舗ごとにカテゴリー別の売上まで出すなら、データ提供の依頼をかけるので丸一日かかります」
もし上司から梅プラン=店舗ごとのカテゴリー別の売上を3時間で出してほしいと言われたら「データ提供の依頼が必要なので1日は必要です。でも店舗別の売上なら3時間で出せます。地域別なら1時間で出せます。いかがしましょう」と上司に選択肢を提案する。
もし上司がスピードを重視するなら「それなら店舗別の売上でいいので3時間で仕上げてくれ」と竹プランを選択するだろう。もしどうしても梅プランでなくてはいけない場合でも『納期も遅くなり、時間=コストがかかるということを納得してもらいやすくなるでしょう』と清水氏は同著書で書いている。
上司や顧客に具体的な選択肢を提案すれば、締め切りの提案・交渉はしやすくなるのだ。
締め切りが明示されない日本特有の「なるはや病」一方で「なるはや」に代表されるように日本では上司や顧客から仕事の締め切りが明確に示されないことも多い。
先程紹介した中島氏も同著書で『日本の職場で今最も蔓延している病気といえば「なるはや病」でしょう。これは「締め切りは明示しないけど、とりあえず早めにやってくれると助かるのでなるべく早くやってくれ」という、極めてあいまいな指示が飛び交う日本企業特有の病です』としている。
仕事の締め切りがあいまいだと、仕事を受けた側・依頼した側の双方がストレスを感じることになる。
仕事を受けた側は上司や顧客から予想より早いタイミングで「あの件、どうなった?」と聞かれ「そんなに早くやらなければならなかったの?」とストレスを感じる。仕事を依頼した側も「なるはやってお願いしたのにまだかな」と自分が期待する期日に仕事が提出されないことに不満を感じる。
日本企業ではこうしたケースも珍しくないのではないだろうか。
仕事を依頼する側は実はそんなに急いでいないGoogle、NIKE、P&Gでトレーニングし、世界最大のスピーチイベントで最高ランクの評価を得たジュリエット・ファント氏は『WHITE SPACE ホワイトスペース―仕事も人生もうまくいく空白時間術(東洋経済新報社 2022) 』で『案外、顧客自身もそんなに急いでなかったりするものだ』とし、入院患者がナースコールを押す回数について病棟看護師と行なった調査結果にもとづいてこのことをわかりやすく説明する。
ナースコールに応じる時間が決まっていない時、患者は緊急かどうかにかかわらず用事を思いついたらその都度ボタンを押した。しかし看護師が「毎時間始めに立ち寄りますね」と声がけしたところ、患者が即座にボタンを押す回数は減ったという。看護師が次いつ立ち寄るか、その時間・タイミングを明確に示したことで結果的に患者は緊急の時を除き、次の巡回まで待つようになったのだ。
このケースから学べるのは、対応するタイミング=締め切りを顧客に知らせれば、その仕事が急ぎかどうか判別できるということだ。締め切りがあいまいなまま仕事を受けると、その仕事が顧客にとって真に緊急かどうかの判断がつかない。結果的に顧客が求める以上に早く仕事を仕上げてしまう機会も増え、自らの負担を増やすことにつながってしまう。
「いつまでに仕上げればよろしいですか?」と必ず確認するでは上司や顧客から明確に仕事の締め切りが示されなかった時、我々は具体的にどうすればいいのか。
先程紹介したファント氏の著書ではこの問題の解決策として、どんな時でも必ず「いつまでに仕上げればよろしいですか?」と確認することをあげる。
『こう問うことで、相手の都合や期日を尊重していることを示せる。さらに、相手の目に映るあなたの価値を高めながら、同時に過度な負担を減らすこともできる』とファント氏は言う。
筆者も仕事を受ける時に必ず「いつまでにやればいいですか?」と相手に確認して仕事の締め切りを明確にすることを心がけている。相手から示される締め切りが自分が考える期間よりも短いと感じる時は相手に仕事の内容を確認し、必要に応じ清水氏の松竹梅プランを活用して締め切りを交渉する。
仕事の締め切りを自ら決め交渉する姿勢を持つことで、仕事の効率・生産性は飛躍的に高まる。ぜひ今日から意識して取り組んでみてほしい。
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滝川 徹 時短コンサルタント 1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2022年12月25日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。