「上司の命令は絶対」 「お客様は神様」

こうした考え方はまだまだ日本で根強い。こうした背景から仕事の締め切りは仕事を依頼する側=上司や顧客が決めるものであり「与えられるもの」と考えている人も多い。しかし言われるがまま仕事を受け続けると、働く時間をコントロールできなくなり長時間労働に陥る可能性もある。

仕事がデキる人は締め切りを自ら決め、相手に提案・交渉する姿勢をもっている。

たとえばビルゲイツと働き、納期遅れが蔓延するプログラマーの世界で「一度も納期に遅れたことがない男」と言われたマイクロソフト伝説のプログラマー。『松竹梅プラン』を提示し仕事の締め切りを相手と交渉するユニークな手法を使う外資系コンサルティングファーム出身のベストセラー作家など。

彼・彼女らの仕事の締め切りに対する姿勢と対応方法から学べることは多い。

時短コンサルタントとして、仕事の締め切りに対する考え方とベストな対応について、彼・彼女らの考え方を紐解きながら考えてみたい。

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仕事の安請け合いを続けたAくんの末路

マイクロソフトでプログラマーとしてWindows95の開発に携わり、パソコンのドラッグ&ドロップや右クリックの概念を現在の形にしたことで知られる中島聡氏。中島氏は納期遅れが蔓延するプログラマーの世界で「一度も納期に遅れたことがない男」としても有名だった。

中島氏は著書『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか(文響社 2016)』の中で、仕事を与えられた時に何も考えずに安請け合いしてしまう元部下Aくんのエピソードを紹介している。

Aくんは中島氏が仕事を頼むといつも「はい!やります!」「かしこまりました!」などと文句を言わずに仕事を引き受けたという。ある時中島氏は締め切りが1週間後の仕事をAくんにお願いした。Aくんはその後毎日まじめに仕事をしているように中島氏からは見えた。土日も体を休め、余裕をもって仕事をしているように見えたのだという。

ところがある日中島氏が会社に行くとAくんはなんとオフィスで一人寝ていた。どうしたのか聞くと徹夜で仕事をしていたのだという。中島氏が「大丈夫?ちゃんと終わる?」と確認すると「大丈夫です!頑張ります!」と答えが返ってきた。締め切り前日の木曜日だった。

中島氏は不安を感じたがA君はまじめな部下で、仕事の手を抜いたり適当な完成度で放り投げたりする人物ではなかった。任せた仕事はほとんど終わっていて、クオリティを上げるために時間を費やしているのだと中島氏は考えたという。

だが締め切り当日の金曜日、Aくんが中島氏に語った言葉は「すみません、ほかの仕事もありまして、徹夜もしたのですが……もう1日いただけないでしょうか……」というものだった。

Aくんはその後も毎回締め切りギリギリになって「すみません、終わりませんでした」と謝りにきたという。毎回徹夜で仕事をがんばるので目を赤くして中島氏を訪れ「徹夜したのですが……」と眉を下げ、本当に申し訳なさそうに言ってきたのだそうだ。

中島氏もその後Aくんがしっかり仕事できるように様々な工夫を試みた。通常2週間単位の仕事を割り振るところを3日単位の小さな仕事を割り振る。あるいは単に仕事の量を半分にしたりした。しかし結果は変わらなかった。Aくんは最後には「終わりませんでした」と言ってきたという。

その後もまったく改善が見られなかったA君は、1年後に中島氏のチームを去ることになった。

中島氏によるとAくんは仕事自体はデキるし、そこそこ優秀なプログラマーだったという。ではなぜAくんは仕事を締め切りまでに終わらせることができなかったのか。それは中島氏によれば、仕事を与えられた時にあまり深く考えず安請け合いしてしまっていたからだ。

与えられた仕事にどれくらいの時間がかかるのか=仕事にかかる時間の見積もりは実際に手をつけてみないとわからないことも多い。しかし中島氏によればAくんは仕事を与えられた際に簡単に仕様書を見ただけで「できます!」と判断していたという。

『慎重さを欠いて安請け合いをすると、仕事は終わらず、上司からの信頼も失ってしまいます』と中島氏は同著書で説く。仕事を引き受ける時は仕事の締め切りを自分で慎重に判断したうえで引き受けるべきなのだ。