独週刊誌シュピーゲル(10月29日号)に啓蒙的なインタビュー記事が掲載されていた。イスラエルの哲学者オムリ・ベーム氏(現ニューヨーク社会調査ニュー・スクール教授)は新著「Radikaler Universalismus.Jenseits von Identitat」(過激な普遍主義、アイデンティティを越えて)の中で、アイデンティティに代わって、カントが主張した道徳法則を自身の義務と考える自由を有し、それゆえにわれわれは責任を担っているという普遍主義を主張している。
権力と利益が中核となった“ポスト・トゥルース”の世界で、正義を取り戻すために、右派は伝統と民族的価値観の世界を追求し、その結果、権威主義的、独裁的な国家の温床となる危険性を内包している。一方、左派はジェンダーと民族のアイデンティティを重視している。そのような中、ベーム教授は、「プライベートなアイデンティティを最高の価値に置くのではなく、“わたしたちのアイデンティティ”の世界を越えたところにある法則、われわれは平等に創造された存在であるという絶対的な真理のもとで考えるべきだ。そうなれば、他国を支配したり、植民地化し、奴隷にするといったことはできない」という“過激な普遍主義”を提唱している。
ベーム教授の主張は理想論かもしれないが、アイデンティティ論を考えるうえで教えられる。他民族や大国に支配されてきた少数民族や国家は、民族・国家のアイデンティティの回復を最優先とし、時に戦いを始める。それがこれまでの歴史だった。しかし、失った正義を取り戻すためにはそのアイデンティティを超克しなければならないのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。