要するに、インフレになったからといって、「はい、分かりました。それでは歳出を抑制しましょう」とはならないのです。MMT理論は単純化した机上の空論であって、現実の財政は政治的現象です。

政治は理論の都合のいいところだけをつまみ食いしており、経済、財政理論と無縁の世界です。平時に選挙対策、世論対策、野党対策で歳出を安易に膨張させてしまうと、切るべき時に切れない。MMT理論は財政が政治現象であることを無視しています。

予算案には多くの偽装が施されています。「税収は69.4兆円で過去最高になり、新規国債発行額は35.6兆円で1.3兆円、減らす」ことになっています。税収見積もりは、来年度の名目成長率2.1%との前提を置いた試算にすぎません。

成長率がこれより低い結果に終われば、税収は減り、国債の新規発行額も削減できない。当初予算で化粧直しをしたように見せかけている。これまで毎年のように、巨額の補正予算を組んで歳出を膨張させ、国債で手当てしてきました。

当初予算をみて、財政規律を忘れていないふりをしても、補正を含めた全体(決算後予算)で比較しなければなりません。

さらにインフレ抑制のために、主要国は一斉に金利引き上げに動いています。その代償が景気後退です。金利を引き上げても高めのインフレがグローバルに続く。利上げが終息しても、高めの金利水準は続く。その結果、インフレ下の物価高になる。スタグフレーションの到来です。

IMFは世界経済の成長率を21年の6.0%に対し、22年は3.2%とみています。中国経済は不動産バブルの崩壊、ゼロコロナ政策の影響により、実質成長率は年間3%まで下落するようです。

長期的トレンドとしては、経済成長にブレーキをかける要因ばかりが目白押しです。安全保障関係費、地球環境対策費、少子化の急速な進展(生産年齢2.3人口の減少)、感染症対策費などです。つまり「高負担による低成長社会」の到来です。

そうした展望に立てば、財政再建はますます難しくなる。そんな認識を持たず、「11年連続で予算規模が過去最大を続け110兆円、国債発行残高が1100兆円、GDP比が2.3倍という途方もない水準」という予算編成はあってはならない。政治はもっと危機感を持つべきです。

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年12月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。