このコラム欄でも既に報告したが、数日前、隣国オーストリアでもロシアのスパイが発覚したばかりだ。オーストリアの対諜報機関によると、ロシア系の39歳のギリシャ人は、ロシアの秘密情報機関「ロシア連邦軍参謀本部情報総局」(GRU)のために数年間スパイ活動を行い、オーストリアの国益を害した疑いが発覚したという。オーストリア内務省が19日、公表した。容疑者は現役時代に外交官としてドイツとオーストリアに駐留していた元ロシア諜報機関職員の息子だ。

39歳の容疑者は、ロシアで特別な軍事訓練を受けた後、GRUで働いていた。彼はさまざまな国の外交官や情報当局者と接触していた。容疑者はほとんど収入がないのにもかかわらず、2018年から22年初頭までの期間に、合計65回、オーストリア国内外を旅行している。他のヨーロッパ諸国だけでなく、ロシア、ベラルーシ、トルコ、ジョージアにも投資し、ウィーン、ロシア、ギリシャでいくつかの不動産を取得しているという。

なお、アンチ・テロ対策のコブラ部隊は今年3月、ウィーン市22区の容疑者の拠点を襲撃し、信号検出器、聴取装置、防護服、携帯電話、PC、タブレットなどを押収、そこから数百万件のファイルが見つかっている。

ロシアのプーチン大統領は今月19日、治安部隊に対し、「外国の諜報機関の行動は直ちに鎮圧されなければならない。裏切り者、破壊工作員、スパイは捕まえなければならない」と強調し、スパイ活動の強化と共に外国スパイ活動の撲滅を命令している。プーチン氏の治安部隊への発言は、欧米情報機関の関連情報がLを通じて伝わっていることを強く示唆している。

NSAと米中央情報局(CIA)の元局員エドワード・スノーデン氏を思い出してほしい。米国がスノーデン氏のモスクワ移住で最も懸念したことは米諜報機関のエージェント名、拠点、モスクワ内の支援者名がロシア側の手に落ちることだった。そのため、米国側はスノーデン氏のロシア移住直前に、海外のエージェントの再編成を実施したことは間違いないはずだ。

ところで、排除できない点は、39歳の容疑者がドイツのBNDのLと接触していた可能性だ。ひょっとしたら、今年3月にオーストリア治安関係者から尋問を受けた容疑者はBND内のLの存在を漏らしたかもしれない。押収されたファイルから情報提供者としてのLの名前が浮かび上がったのかもしれない。警戒しなければならない点は、ロシア軍のウクライナ侵攻以後、ロシアの治安機関の活動が強化されていることだ。

蛇足だが、欧州で暗躍するロシアのスパイ・エージェントの4人に1人はウィーンに拠点を置いているという。ロシアのスパイは、東西両欧州の中間に位置し、中立国であり、国際都市のウィーンを愛している。「会議は踊る」と揶揄されたことがあるウィーンでは、舞踏会のシーズンとなれば到る処からワルツが流れる。ウィーンっ子はモーツァルトやベートーヴェンの音楽よりも、ヨハン・シュトラウスのウィンナー・ワルツを愛する。そのワルツに乗ってスパイたちが息を潜めながら舞い続けている。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。