30年前に逆もどりした急激な円安による購買力の低下、輸入インフレの加速、企業物価の上昇(10%)、最大の経常収支の赤字(7-9月で20兆円)など、どれをとっても悲惨な数字が並んでいます。
日銀が意図して「サプライズ」を演出したのではなく、市場の動きに押しきられた結果です。特に1㌦=150円という円安、体感では5%を超す物価上昇に直面して、政治の次元から圧力がかかったと推察します。
「来年3月の退任まで黒田氏は異次元緩和を修正しない」とする専門家もおりました。市場の動きも総裁の任期に合わせてくれると思うのは間違いだったことも証明されました。
政府・日銀の共同声明の見直し論まで内部で浮上するようになり、次期総裁の段階で、異次元金融緩和(長短金利の変動幅の制限=YCC)の修正が必必至になっています。次期総裁にそうされると、「黒田緩和策」からの転換が始まる。
黒田氏は先手を打って、「それなら自分の在任中に政策を修正してしまおう。新総裁はその流れ(長期金利の変動幅の拡大)に沿って舵取りをすることになれば、自分の面子も守れる」という判断が働いたと私はみます。実際は先手どころではなく、政策転換は後手に回ってきた。
黒田氏は記者会見で、「債券市場の機能が低下している」、「今回の措置で市場機能が改善することが期待される」と、「市場機能の改善」という表現を何度も使いました。
日銀総裁にしては視野が狭い。「国債の50%以上を日銀が保有しており、そのこと自体が市場機能の喪失を招いている」、「日銀はETF(株価指数連動上場投信)も大量に保有し、日本最大の株主になり、株式市場の柔軟性が失われている」というのがずっと本質的な問題です。
さらに「大規模金融緩和と、赤字を垂れ流す財政出動が10年にも及び、本来なら淘汰されるはずの死に体企業(ゾンビ企業)が生き残り、産業・企業の新陳代謝が進んでいない。競争原理という市場機能の基本が失われ、日本経済の停滞を招いている」が本質的な問題です。
「市場機能の喪失」は黒田総裁が考えているミクロ次元の話ではなく、日本経済全体の停滞というマクロの話なのです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年12月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。