黒田氏の起用が誤りの始まり
日銀は20日、事実上の金利引き上げ(長期金利の上限幅を0.5%に変更)に迫られました。黒田総裁は不可解な説明を繰り返しています。今回も「市場機能の改善が目的で、利上げではない」というではありませんか。苦し紛れの弁解を言い続けるのはやめたほうがよい。

黒田総裁と安倍首相(当時) 首相官邸サイト
「市場機能の改善に焦点をあてたもので、金融引き締めではない」などと、総裁は記者会見で言い切りました。そんな意味不明の表現ではなく、「利上げ見込した投機筋の国債空売りが殺到し、それに対抗せざるを得なかった」と、分かりやすく述べるべきでした。
これほど論争の的になった日銀総裁の存在は前代未聞です。貨幣数量説を妄信し「2年、通貨供給量2倍、物価上昇2%」を自信たっぷりに掲げてきた黒田氏という人選が間違いだったのです。
ばくちに近いような壮大な実験の目標を公約に掲げるのは、政治の世界ではよくみられる。信頼性を欠いてはならない日銀総裁は政治のまねしてはいけません。当時の副総裁までもが「2年で達成できなければ辞任する」とまで大見えを切って、結局辞任しなかった。
安倍首相と一体でしたから、黒田氏は総裁職を続けられました。来年3月に決まる次期総裁は、日銀の中立性と信頼性を守れる人物を選ぶよう岸田政権に期待しています。
新聞の反応をみると、日経は「日銀、苦渋のサプライズ」とか「金融政策の先行き指針(フォワードガイダンス)を示すことで市場の混乱を避けることが世界の潮流なのに、今回のサプライズはこうした流れに背を向けた」と、「サプライズ」という表現を何度も使っています。
総裁の言葉を信じ切っていた市場関係者や日経新聞にとっては「サプライズ」であった。読売社説は「市場の現実に促された判断だ」、朝日社説は「日銀はもっと機敏に動く必要がある」として、サプライズという表現を使っていません。こちらがまともです。
「金融政策の転換が必要だ。まず、長期金利の変動幅の拡大をしてみることだ」と、警告する識者、専門家は少なからずおりました。その通りになりました。彼らにとってはサプライズではない。「日銀は追い込まれて当然のことをやらされた」と考えるのが正しい解釈です。