バチカン放送はフランシスコ教皇が聖母マリアになぜ「もうテレビを見ない」と約束したのかについては説明していない。ブエノスアイレス大司教だったフランシスコ教皇が当時、聖務を忘れてサッカー試合に熱中したため、聖母マリアからお叱りを受けたからだろうか。

フランシスコ教皇はW杯決勝戦をライブでは観戦しなかったが、試合の数時間前に、決勝戦についてイタリアの放送局カナーレ5とのインタビューに応じ、勝利チームへのメッセージを送っている。曰く、「誰もが勝者を祝福します。彼らは勝利を謙虚に受け取るべきです。最大の価値は勝つことではなく、公正かつ適切にプレーすることにあるからです」と強調し、「両チームは握手する勇気も持つべきです。私たちはスポーツマンシップを確実に成長させなければなりません。このワールドカップが、人を高貴にするスポーツマンシップの精神を活性化するのに役立つことを願っています」と語り、締めくくっている。

当方はこのコラム欄で「なぜ、神様はサッカーを愛するか」(2014年9月3日参考)という記事を書いた。そこで「世界サッカークラブのトップを走るドイツのブンデスリーグには欧州選手だけではなく、アフリカ、アジア、中東から、と文字通り世界各地の選手が集まっている。彼らはゴールを目指し、ボールを追う。そこでは民族、宗派の違いはテーマではない。神様がサッカーというスポーツを愛するのは、そのためだろう」と書いた。その思いは今も変わらない。実際、フランス代表には昔の植民地出身のサッカー選手が多くいることに気づく。

サッカーはカタールのモダンなルサイル競技場だけではなく、ボール1個あればどこでも楽しむことができるスポーツだ。野原でボールを追いかけっこする子供たちの姿はサッカーのルーツだろう。実際、バチカンにもクレリクス・カップ(Clericus Cup)というサッカーリーグが存在する。リーグ戦には19歳から57歳までの神学生、神父たちが、出身国別ではなく、機関所属別に分かれ、バチカン近くにあるペトリアナピッチで試合が行われる。バチカンニュースによると、小児病院チームがドンバウヒュッテのファブリカチームとの最終戦を3-0で勝利し、2022年のリーグ優勝に輝いている。

母国に戻ったアルゼンチン代表を歓迎する凱旋パレートが20日、首都ブエノスアイレスで行われ、400万人以上の国民が集まった、というニュースが報じられた。国民は自国に栄誉をもたらした代表たちを迎え、日ごろの苦労を忘れて喜び、その勝利を導いた神に感謝を捧げる。サッカー・ボール1個が国民を結束させ、人々は勝利に酔って歓喜の声を上げ祝い踊る。南米では「サッカーは宗教」といわれる所以だ。

アルゼンチン代表の主将リオネル・メッシ(35)はインターネット交流サイト(SNS)に「失望がなければ成功はやってこない。さあ行こう、アルゼンチン」(時事通信)と国民を鼓舞したという。

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編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年12月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。