「戦略的人事説」の浮上
注目される説として、モスクワ総主教府の「戦略的人事説」が浮上してきている。イラリオン府主教がハンガリーのブタペスト府主教に任命されたという事実だ。キリル1世にとってハンガリーは重要な拠点だ。
欧州連合(EU)欧州委員会が対ロシア制裁第6弾でキリル1世への制裁を提案したが、ハンガリーのオルバン首相が、「宗教指導者を制裁リストに載せることは良くない」として拒否権を行使したため、キリル1世の制裁リスト入りが回避された経緯がある。キリル1世にとってハンガリーは貴重な友邦国だ。ハンガリー正教会はモスクワ総主教府にとっても重要なパートナーと受け取られている。
以上の内容から、ハンガリー・ブタペスト府にイラリオン府主教を人事した今回の決定は、「渉外局長=外相」から「外国の主教」への降格人事というより、モスクワ総主教府の戦略的な人事と解釈できる。イラリオン府主教は2003年から09年までブタペスト府主教を務めてきた。ハンガリー正教会の動向にも精通している。その意味で適材適所の人事という意味合いが出てくるわけだ。
なお、イラリオン府主教の後任に選ばれたアンソニー府主教は過去、キリル1世の個人的秘書を務めてきた聖職者だ。キリル1世は気心の知れた若い聖職者を側近に選んだといえる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年6月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
文・長谷川 良/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
【関連記事】
・「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
・大人の発達障害検査をしに行った時の話
・反原発国はオーストリアに続け?
・SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
・強迫的に縁起をかついではいませんか?