必要なのは日銀が「正直になる」ことだけ
もっと簡単な方法は、黒田総裁が「日銀の保有国債はすべて借り替えに応じ、償還を求めない」と宣言することだ。これは日銀の保有国債を永久債にするのと同じで、国債の金利は国庫納付金として政府におさめるので無利子と同じである。
つまり日銀は、今でも国債を実質的にマネタイズ(財政ファイナンス)しているのだ。黒田総裁はそれを否定しているが、国債を60年で償還するルールは空文化し、ほとんど日銀が借り換えに応じている。日銀が国債を途中で売却することはありえないので、これは日銀引き受けと同じである。
マネタイゼーション自体は悪ではなく、金利をコントロールすれば問題ない。必要なのはターナーもいうように、日銀が正直になることだけである。これは理論的には現状とほとんど変わらないが、財政ファイナンスを認めることは債券市場にショックを与える可能性がある。
最大のリスクは、ターナーも認めるように、政府の予算制約がなくなることだ。今回の防衛費のように政治家は「国債を発行すればいくらでも出せる」と主張するので、その歯止めがなくなる。
今までは財務省がプライマリーバランス黒字化などの経済学っぽい話で財政膨張に歯止めをかけてきたが、それもMMTの影響できかなくなった。これ以上、日銀がマネタイズしていると、投機筋の空売りで国債が暴落して金融危機が起こるおそれがある。
だから大事なのはインフレ率ではなく、金利をコントロールしながら、ゆるやかに上げていくことだ。物価はインフレ目標を多少オーバーシュートしてもかまわない、というのがWoodford-Xieの理論である。今回は5年物や30年物の国債までYCCの対象にし、金利ターゲティングに近づいている。
日銀が長期金利を規制することは好ましくないが、統合政府のバランスシートから国債を消すには必要である。これは2013年の政府と日銀のアコードを否定するもので、黒田総裁には不可能だろうが、ポパー主義者の彼は、インフレ目標が反証されたことを知っているはずだ。
次の総裁が誰になっても、必要なのは日銀の役割が財政ファイナンスのコントロールに変わったことを認識し、新たなアコードを結ぶことである。無意味になったインフレ目標は、なくしてもかまわない。