2000年以降、「何年ころに逆転するか」という切迫した問題意識がもたれるようになりました。「為替レートが変わらなければ、2020年後半に逆転する」(2011年、伊藤隆敏・東大教授)と。「為替レートが不変」を前提をおく見通しはまず意味がなかったのに、そんな予測をした。

予測に熱心だったのは日本経済研究センター(日経新聞系)は、「2029年ころに逆転する」とのそれまでの予想を昨年「33年に逆転する」と先送りしました。さらに12月15日付の日経新聞一面で「米中GDPは逆転しない」(同経済センター)と、これまでと真逆の予想です。白紙撤回です。

「なんだこれは」と思いました。米中逆転があり得なくなった理由として、同センターは「コロナによる移動制限、米国の対中輸出規制、台湾有事を懸念する海外企業の中国離れ、長期的には人口減少・少子化による労働力不足」などをあげています。ドル高・元安も加えるべきです。

仏歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏は「中国が強大は覇権国になることはない。教育水準や人口動態からみても、中国が世界のリーダーになる可能性はゼロでしょう」(文春新書、21年11月)と、一年前に言い切っています。まあ、日経グループの完敗です。

金利・為替政策を国際政治、国際経済全体との関係を考えて進めるべきです。権力志向、覇権志向の強い中国経済が米国経済を追い越してしまったら、中国の強国路線が加速するに違いありません。ドル高・元安はその点でも「米国の利益にかなう」ことになります。

ドル換算した中国のGDPは、ドル高・元安のため、その差を追い詰められなくなっている。最近は1㌦=約7元で08年以来の安値となり、元を基軸通貨の一つとして認知させようとの思惑も難くなっています。

米政府、FRBは長期的、歴史的な展望に立ったドル高政策を持っている。日々の動き、月々の動きとしては、物価、失業・雇用、賃金動向などを見極めていく。毎日の相場動向、FRB議長の発言ばかりに目を奪われてはいけない。政府、日銀はその後者の動きばかりを見ている。

人口減・労働力不足が深刻化している中で、外国人労働者が「円安で外貨換算した手取りが減り、祖国に送金できなくなった」というニュースが毎日のように報道されます。日銀は目を覚ますべきです。

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年12月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。