ドル高容認の背景には対中政策もある
日銀ウォッチャーの加藤出氏(東短リサーチ)が最近書いたの記事の中で、2090年代のルービン米財務長官の「強いドルは米国の国益にかなう」との政策理念を想起しています。「強い通貨」は「対外的な購買力を高め、インフレ率を低下させる。良質な投資資金も流入する」との政策理念です。
加藤氏は「日本の通貨安は逆の悪循環を生む」と、日銀の金利政策を批判しています。OECDのデータでは、主要国の中で日本の名目賃金だけが過去30年間も横ばいです。米英加豪などはこの間2、3倍になっています。日本だけが世界経済の孤児になっている。異次元金融緩和、財政膨張の長期化に甘えて新陳代謝のなくなった経済構造がその要因になっている。
黒田日銀総裁は「異次元金融緩和の目的はデフレ脱却であり、円安誘導ではない」と、釈明を続けてきました。それに対し、元日銀理事の早川英雄氏は「アベノミクスの金融政策は円安政策だった。2%の物価上昇を達成するための手段は円安だった」と、ずばり指摘しています。
日銀を経て東大教授の渡辺務氏は「異次元緩和は大幅な円安を起すところまでは目論見通りだった。しかし、賃金が上がらないまま、物価だけが上がり始め、国民が悲鳴を上げるようになった」(講談社現代新書」と、これもずばりと、説明しています。

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日銀にいた幹部の二人から「異次元緩和の目的は円安誘導だった」といわれては、黒田総裁はウソをつき続けてきたことになる。為替誘導は相場の乱高下などの緊急時への対応に限るというのが国際的な申し合わせです。黒田総裁はそれも破ってきたのです。
ここで想起すべきなのがルービン氏の「強いドルは国益にかなう」という経済的信念です。黒田氏は頑なに貨幣数量説を信じきり、目先の物価上昇率を注視し、金融政策を続けてきました。「弱い通貨(円)が国益にかなう」は、国際常識になじまない。
ここで注目したいのが、「米中経済の逆転はありうるのか」ということとドル高・元安との関係です。ルービン氏のころはまだ「米中経済の逆転」は現実的な問題ではなかった。今なら、「強いドルは米中逆転の阻止にもつながる」というに違いないと、私は思います。