TikTok禁止に動く共和党、様子見の民主党

このように中国政府の強い影響下にあり、情報セキュリティの観点から問題のあるTikTokだが、最近米国では共和党主導で徹底的に排除する動きが出てきている。

この数週間の間で、サウスダコタ州、サウスカロライナ州、メリーランド州、ユタ州やテキサス州の共和党知事は州政府が支給する機器でTikTokがインストールされることを禁ずる州知事命令を発表した。米国議会では、対中強硬で有名なマルコ・ルビオ上院議員が安全保障上の観点から米国内におけるTikTokの使用自体を禁止にするように求めている。

共和党はTikTok禁止に前のめりになっているが、民主党は様子見の状態である。上記のTikTok禁止法案は上院を通過したが、民主党のペロシ下院議長は下院での同法案の議決については考えが定まっていないとしている。

現在、バイデン政権はTiktokの代表らとバイトダンス社からの分離をさせるための交渉の最中におり、民主党としてはその交渉の障壁となるような行動を避けようとしている。しかし、民主党の支持基盤がTiktokのメインユーザーである若年層に多いことを鑑みた時、民主党側の沈黙には政治的な思惑も透けて見える。

TikTok禁止が内在するジレンマ

だが、AEIのクローン・キッチン氏曰く、政治的な問題とは別に、経済的な要因が米国政府がTiktok全面禁止を躊躇させているのだとする。これまで、ファーウェイやZTEなど中国系企業の製品などが政府内で使用されることが禁止された例はあるが、今回議論されているTiktokのように民間レベルまで禁止措置が及ぶ例は米国においては無い。

もし、今後中国政府と結びつきがあるとの理由でTiktokが官民問わず使用することが禁じられる事態にまで発展すれば、米国は他の中国系企業のサービスや製品に対しても同様の措置を取らざるを得なくなる。つまり、究極的には中国企業を米国市場から完全に締め出すことを意味する。

米国が完全に中国とのデカプッリングを覚悟していれば話は別だが、上記の懸念は一蹴されるが、未だに米国は対中依存が深い。また、米国でインフレが進行している最中でのデカップリングは深刻な供給不足を惹起しかねず、そうなれば米国の基盤は揺らぎ、中国と対峙するどころの話では無くなってしまう。

米国のTiktok全面禁止をめぐる動向は、今後の米国の対中政策を占う上で重要な意味合いを持つ。もし、米国がTiktok禁止が引き起こす経済的損失を度外視して全面禁止措置を講じれば、それは米国の対中国政策の本気度を示すことにつながる。だが、デカップリングの準備が出来ていない状態での禁止措置は、米国が合理的に行動することができないとの印象を同盟国に与えかねず、同時に同盟国の離反を促す効果を生み出しかねない。

Tiktokに対し米国がいかなる行動を取ったとしても、リスクは発生するし、予期せぬ波及効果も覚悟する必要があることに我々は留意するべきだ。